2023年4月から活動をスタートしている「プレジデント ウーマン リーダーズサロン」。サロンイベントの第5回は、2023年11月7日にプレジデント社会議室にて、久々のリアル開催となった。ゲストスピーカーには、ネット証券グループ大手マネックスグループ代表執行役社長CEO兼マネックス証券代表取締役社長の清明祐子さんが登場。「女性のキャリアとマネー」を考える清明祐子さんの講演内容の要約を公開。
ピンヒールを履いて出世の階段を上っていく女性
写真=iStock.com/peshkov
※写真はイメージです

転職してから金融グループ企業のトップになるまでの15年

第5回「プレジデント ウーマン リーダーズサロン」は、大手ネット証券グループの「マネックスグループ」の代表執行役社長CEOであり、「マネックス証券」代表取締役社長の清明祐子さんをゲストスピーカーに迎え、清明さんご自身のキャリア変遷をたどりながら、リーダーとしてどうチームをまとめ、動かせばいいのかを、参加者それぞれが考えられる内容の濃い講演となった。

清明祐子さんは大学卒業後、三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。銀行の営業職として8年働いた後、2009年にマネックス・ハンブレクト(現マネックス証券)に転職。2011年にマネックス・ハンブレクト代表取締役社長に就任。2013年、マネックスグループ執行役員、2018年マネックスグループ常務執行役となり、2019年にマネックス証券代表取締役社長に就任(現任)。2020年にマネックスグループ代表執行役COOとなる。2022年にマネックスグループ共同CEO兼CFOに。そして2023年にマネックスグループ代表執行役社長CEOに就任し、現在に至る。マネックスグループに転職してから15年。これまでの道のりを振り返りながら、トップとして考えることなどを語った。

マネックスグループ代表執行役社長CEO/マネックス証券代表取締役社長・清明祐子さん
撮影=国府田利光
マネックスグループ代表執行役社長CEO/マネックス証券代表取締役社長・清明祐子さん

転職後2年目に突如「社長になれ」

銀行員時代の20代〜30代前半までは、とにかく仕事人間。営業職で、オフの飲みもゴルフも全部営業のためにやっていたほど。

その頃の銀行はまだまだ男性社会。営業担当が交代して私が行くと「なんだ女か」と言われたこともありましたが、「そらそうだよな。突然女性が来てびっくりするわな」と思った程度。むしろ性別でマイナスから入るということは、ちゃんとした仕事をすればプラスにしかならないと考えました。

3年ほど営業職をして、東京の本部のストラクチャードファイナンス部に異動になりました。仕事自体はとても楽しかったのですが、少々違和感を覚えて転職を決意しました。

転職先として選んだのが、プライベートエクイティファンド(PEファンド)を運営するMKSパートナーズ。当時、銀行からPEファンドへ転職するのはレアなケースだったと思います。実際にMKSパートナーズに在籍する人の多くはコンサルティングファーム出身か、MBAを取った後に転職してきたような人たちでした。転職後は苦労の連続で、最初のうちは専門用語を知らず、職場の人たちが何を言っているのか日本語でも分かりません。心が折れそうになる瞬間もありましたが、私は人に恵まれていました。気にして声をかけてくれる先輩たちがいたので、困っていることも気軽に相談できました。そうして成長できたあの転職は、今振り返ってみても正解だったと思います。

しかし、2年後の2008年、リーマン・ショックがあった年に、MKSパートナーズは会社自体がクローズするという意思決定をしました。

2009年にやっと入社できたのがマネックスグループの子会社、マネックス・ハンブレクト(現マネックス証券)。社員4、5人の小さな会社です。そこで働き始めて2年目の2011年、突然、親会社から「社長をやって」と辞令を受けました。元々私を雇ってくれた社長と役員の上司だった人が突然部下になるという事態が発生する社長交代劇です。会社は赤字続きの会社をそのまま引き継いだ形ですが、引き受けたからにはやるしかなく、一生懸命やりました。

1年目で設立以来初めての黒字化を達成し、2年目で累積赤字をすべて解消しました。

マネックスグループ代表執行役社長CEO/マネックス証券代表取締役社長・清明祐子さん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

他社のM&Aアドバイザリーを一生懸命やって会社を黒字化しましたが、2013年、自社のM&Aをやりなさいと言われ、マネックスグループグループの執行役員に就任。2019年、今度は「マネックス証券の社長をやって」と言われ、代表取締役社長に就任しました。

ご存じのように、マネックスグループ、マネックス証券はカリスマ的存在の松本大が1999年に創業した会社です。そのカリスマから社長を引き継ぎましたが、私は松本と同じようにはできないし、比べられるのも違うと思い「松本大のマネックスから私たちのマネックスをつくります」と、広く宣言していました。そして、2020年からマネックスグループの持株会社の代表執行役員となり、2023年6月から、プライム市場に上場しているマネックスグループ(ホールディングカンパニー)の代表執行役社長CEOになりました。

上下逆転劇で、元上司にどう動いてもらうか

マネックスグループに入社してから、少しずつ率いるチームも大きくなりましたし、チャレンジする内容も濃くなっていきました。

最初に社長に就任した際、上下関係が逆転して考えたことは「元上司たちにどう動いてもらうか」。報酬体系を変えたり、働いただけその人が儲かる仕組みをつくりました。ただし、人の気持ち、例えば、元々社長で上司だった人が突然一プレーヤーになる気持ちはわからず、ずっと悩んでいました。とはいえ悩んでも答えが出ないなら時間の無駄。社長になって以降は、自分の時間を使っても解決できないものがあると気づき、プライベートを充実させることにしました。趣味が多く、プライベート時間が充実しているからこそ、毎日笑顔で仕事に行けることが大きいと思っています。

そんなことをしていたら、経営者にとって必要な覚悟とは何か、決断力や巻き込み力など、自分だけで考えていたら絶対にわからないことが見えてきました。わからないことは教えてくださいと、謙虚に願いする。人の力を借りるということがおのずとできるようになりました。

人を巻き込もうとするとき、人が寄ってきてくれないと巻き込めません。だから「人を好きであること」に努めました。「笑顔の人には人が集まる」「笑顔が人を巻き込める」と、今もずっと大切にしています。

ただし、最初から人にお願いばかりしていると、何がわからないかすらもわからなくなります。人の力をどれだけ借りられるかが、組織の力を大きく強くするのにとても重要。1回自分で考え、わからないところはとにかく誰かに頼るということをやっていくと、組織が強くなるのではないかなと思います。

それから“成功への執着心”と“失敗で終わらせない”こと。何かをやって失敗したときに、「失敗した」ではなく「仮説が違っていた」と思うようにしています。そうすることで「やったことは失敗ではなく、すべて成功で終わっています」と結果を変えられる。一つひとつ切り替えて考えることをとても大切にしています。

「リーダーシップは英語と同じ」の意味は

トップになって権限を使うということを覚えたなと思います。ポジションは役割でもあり、それなりの権限もありますが、結局使えない人が多いんですよね。

社長になった後に、松本が「清明は権限を使い切る人間だった」と言っていたのをあるメディアで読んで知りました。

権限委譲って、移譲する側は「この人ならやれるだろう」と思っても、受け取る側が全然受け取れず、結局、上位者にあれこれ確認しに行くことが多いと感じます。でも意外と権限を使って決めたほうが上に立つ者としてラク。私はそう気づかずにやっていましたが「そういうことだったんだな」と後から知りました。

マネックスグループ代表執行役社長CEO/マネックス証券代表取締役社長・清明祐子さん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

かつて松本が「リーダーシップは英語と同じ。使わないとうまくならない」と言っていました。単語をたくさん覚えても実際には英語をしゃべれないことが多く、積極的に使わないとうまくなりません。リーダーシップも経営も同じで、使いながら力を磨くしかないんですね。

何も持たない自分が唯一ほめられた武器とは

MKSパートナーズ時代、実力主義のコンサルティングファーム出身の人々の中で、何も持たない私が唯一ほめられたのが“コミュニケーション”でした。「清明さんは、コミュニケーション上手だね」「そういうコミュニケーションの取り方は人を巻き込んでいくからいい」と言われて、自分では意外なほど新鮮に感じました。

私流のコミュニケーションとは何かというと、なんでもまず「そうですね」と受け入れる、肯定から入るコミュニケーション。実は、意識してやっていたのではなく、私は本当に相手が言ったことがわからないから「勉強になります」「そうなんですね」と言っていただけなんです。でも、これで会社に貢献できるのならこのやり方でやっていこうと思いました。「違う」と否定するのではなく肯定することがダイバーシティにおいても第一歩だと思っています。

とにかく社員の力を使うためコミュニケーションをよくとることを心がけています。わからないことは立場に関係なく「わからないから教えて」と。自分1人で一生懸命頑張るのではなく“わからない”から始まるコミュニケーションは、非常に使えると思っています。

「老後も遊び続けたい」私の資産形成術

銀行員時代は、クレジットカードも活用して何とか生計を立てていたほど、20代の頃の私の資産はマイナスでした。PEファンドを離れることになった31歳で初めて株式投資をしました。マネックス・ハンブレクト転職後は、M&Aにかかわる中でインサイダー情報を持ち得るため株式投資は控え、35歳でマネックスグループに異動してから積立投信をはじめ、ここから私の資産形成がはじまります。

私は、仕事も遊びも全力でやりたいタイプなので、ただお金を貯めるだけではおもしろくありません。40歳から、弊社の「お任せ運用サービス」をスタート。55歳まで毎月2万円を積み立てます。67歳からは、遊ぶためのお金として、毎月7万円を引き出していくプランです。86歳くらいまで毎月引き出し、遊んで使い切ろうというプランですが、今のところ運用がうまくいっていまして、例えば、86歳になっても20%の確率で7645万6000円残る試算です。コツコツ毎月2万円の投資ですが、老後に7万円ずつ引き出しても、もしかすると86歳になってさらに7000万円が残っているかもしれないということです。おばあさんになっても遊びたい私としてはワクワクします。

マネックスグループ代表執行役社長CEO/マネックス証券代表取締役社長・清明祐子さん
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

今、長かったデフレ時代が終わり、ようやくインフレ時代に向かおうとしています。(2024年1月から)新NISAがはじまり、税制優遇制度も整います。インフレ時代はキャッシュで持っているよりも、投資をしてお金に働いてもらったほうが資産の価値は高くなるでしょう。

これからは、人生はより長くなり、もらえる年金の額もどうなるかわかりません。だからこそ、しっかりとお金に働いてもらうことが大切。資産寿命が本来の寿命よりも少なくなっていると楽しく生きられないでしょう。国も“貯蓄から投資へ”と言っていますが、生活の中に少しでも資産形成の意識を組み入れることが重要です。

講演の後の参加者たちの様子
撮影=小林久井(近藤スタジオ)

講演のあとは、参加者からたくさんの質問が飛び交った。リーダーとしての悩み、意思決定の仕方、そして子育てと仕事の両立の難しさなどをどう解決していけばいいか、清明さんからヒントをもらった。参加者は皆、自分事化し、熱心にメモを取っていたのが印象的だ。

2023年の「プレジデント ウーマン リーダーズサロン」イベントは、11月22日(水)に開催したサロンメンバー座談会で終了。2024年も多くの女性リーダーたちとの濃い交流をめざしているので、乞うご期待!