精神面を考慮すると、「年金の繰り下げ」が無難か

運用利回り年3.5%は実現不可能な数字ではなく、投資に自信のある人であれば達成できることでしょう。ただし、株式や外国資産に投資をしないと達成が難しいことを考えると、リスクはそれなりに取ることになります。

年金を受給しなくても生活できるお金が既にあり、上記の運用利率以上に増やせると自信があるのであれば、年金を投資に回す手もアリかもしれません。

しかし、年金なしで生活できるようなお金がない場合はおすすめしません。

運用で失敗した場合は、60歳時点で確定した減額された年金額で死ぬまで生活しなければなりません。運用取り崩しも、常にマーケットにハラハラしながら日々過ごすことになり、精神衛生上良くないでしょう。

そういった、エキサイティングな生活をしたいということなら、良いのかもしれませんが、老後は穏やかに暮らしたいのであれば向いていません。

「年金の繰り下げ」で増える増額率は「確定」であり、運用リスクがないことは重要なポイントです。マーケットが暴落しても、増額された年金額を生涯にわたってお金を受け取れます。これらの点を踏まえると、年金の繰り下げが無難な選択だと思います。

結局は自分の寿命次第で正解は変わってきます。自分が何歳まで生きるのかわからない、その不確実性に備えるのが保険であり、年金が該当します。年金はあくまでも「保険」です。年金「保険」であることを踏まえ、何歳から年金を受け取るのが良いのか、納得のいく選択をしてもらえればと思います。

資産運用を行うにしても、大切な年金を使うのではなく、資産形成で築いてきた資産や退職金の一部などで行うのが良いと考えます。

頼藤 太希(よりふじ・たいき)
マネーコンサルタント

株式会社Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年にMoney&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』、YouTubeチャンネル『Money&YouTV』、Podcast『マネラジ。』、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)など書籍90冊、著書累計150万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。