欠陥を抱えた選択肢
しかし④は、今回の報告書で新しく提案されたプランだが、あまりにも大きな欠陥を抱えている。
配偶者やお子様が国民の場合、憲法第3章が保障する自由や権利はすべて認められる。政治活動の自由、経済活動の自由、宗教活動の自由など。たとえば、配偶者やお子様本人が国政選挙に立候補したり、民間企業や宗教団体の広告塔になったりしても、すべて“国民として自由”ということになる。
しかし憲法は、天皇・皇室を日本国および日本国民統合の「象徴」と規定しており、国政権能も否定している。しかも社会通念上、配偶者やお子様など“家族は一体”と見られるのを避けにくい。
そうであれば、憲法上の天皇・皇室の地位と、内親王・女王の配偶者やお子様に国民としてあらゆる自由や権利が保障される制度は、両立できない。
岸田氏が「検討」対象に加えると言っている⑤旧宮家プランも、残念ながら現実的な選択肢にはなりえないだろう。
旧宮家系子孫の当事者は、養子縁組によって皇籍を取得した瞬間から、それまで保障されていた国民としての自由や権利の多くを制約される。しかも養子縁組の後、さらに結婚して男子を生まなければ、一体何のための養子縁組だったのかが厳しく問われることにもなりかねない。
それらに対するハードルの高さは、心情的な結合を前提とする結婚による皇籍取得の場合と、事情が大きく異なる。
「特攻隊に志願するほどの覚悟と勇気が必要」なプラン
そのハードルの高さについては、男系維持に強くこだわる論者たちも認めているようだ。たとえば以下のような発言がある。
「(養子縁組プランに同意することは)特攻隊に志願するほどの大きな覚悟と勇気を必要とする決断だろう」(新田均氏『別冊正論Extra.14』)
「復帰(正確には皇籍取得)したいと思っている者はいるわけがありません。……私がベストと思っているのは……(本人にまだ判断能力がまったくない)赤子のうちに(養子)縁組を行うことです」(竹田恒泰氏、7月27日、X)
民間人である旧宮家系子孫に対して、「特攻隊に志願するほどの大きな覚悟と勇気」を求めるプランは、そもそも現実味がないと考えるのが当たり前の感覚ではないだろうか。ましてや、国民同士の養子縁組ならばともかく、皇籍取得のために「赤子のうちに縁組を行う」など、論外だろう。
このプランには、憲法上も人道上も、当事者の同意が当然ながら不可欠だ。にもかかわらず、政府は国会で「そうしたみなさん(当事者)に確認したことはないし、していく考えもない。これは変わらない」〔令和3年[2021年]3月26日、参院予算委員会での加藤勝信官房長官(当時)の答弁〕という趣旨の答弁を、これまで繰り返している。それが虚偽答弁でない限り、すでに政府は(本音として)実現不可能と判断していると考えるほかないだろう。