次世代の皇位継承資格者はたった1人
皇室には現在、天皇陛下の次の世代の皇位継承資格者はたった1人、秋篠宮家のご長男、悠仁親王殿下だけしかおられない。このような状態では、悠仁殿下のご結婚も至難になることが予想される。
一方、次世代の未婚の女性皇族は複数おられる。天皇・皇后両陛下のご長女、敬宮(愛子内親王)殿下と秋篠宮家のご次女、佳子内親王殿下の2人だ(三笠宮家、高円宮家の女王殿下方は、世代としては天皇陛下と同じ世代)。
にもかかわらず、皇位継承資格を男性にしか認めないというルールが、皇室典範ではいまだに維持されている。そのせいで、もし内親王方がご結婚後も皇室に残ることを希望されても、皇族の身分を離れざるをえない状況だ。
両陛下に敬宮殿下というお優しくご聡明なお子様がおられても、ただ「女性だから」というだけの理由で皇位継承資格が認められず、ご結婚後も皇室にとどまられるという選択肢があらかじめ排除されている。現代の普通の価値観に照らして、明らかに不合理なルールではあるまいか。
その不合理なルールが、皇位の継承の行方を不透明なものにし、皇室の存続それ自体も危うくしているという構図になっている。
「触らぬ神に祟りなし」の政治家の無責任
皇室に危機をもたらす不合理なルールを変更できるのは憲法上、唯一、国会だけだ(第2条)。ところが、国会にとって本来ならば最優先すべき重大なテーマに対して、これまで議論が先延ばしされ続けている。これはなぜか。
その最大の理由は、政治家の無関心と「触らぬ神に祟りなし」という“腰が引けた”姿勢だろう。
その事実をよく示すのが、以前、『週刊朝日』(令和元年[2019年]11月1日号)が国会議員を対象に実施した「女性天皇」をめぐるアンケート結果だ。それを振り返ると、以下の通り(端数処理の仕方により、合計が100%を超えるケースもあるが、記事のまま)。
◎愛子さまが天皇に即位できるように皇室典範を改正するべきか。
○するべき→28%
○するべきではない→8%
○無回答・回答拒否→65%
◎女系天皇を認めることに賛成ですか、反対ですか。
○賛成→29%
○反対→13%
○無回答・回答拒否→58%
◎旧皇族の復帰・女性宮家の創設についてどういう意見ですか(※対象となる旧宮家系子孫はかつて皇族だった時期はなく、生まれた時点から国民なので「旧皇族」や「復帰」は不正確な表現)。
○旧皇族の復帰・女性宮家の創設に賛成→3%
○女性宮家の創設には賛成→26%
○旧皇族の復帰には賛成→6%
○どちらにも反対→4%
○無回答・回答拒否→62%
※印は筆者が補足
「火中の栗を拾いたくない」逃げ腰な態度
このアンケートが実施されて以降、衆参両院とも選挙が行われていて、議員構成は多少変わっている。しかし、回答状況の大勢がまったく様変わりしているとは、考えにくい。
そこで改めて中身を見ると、どの質問に対しても最大の比率を占めているのは「無回答・回答拒否」だ(58〜65%)。テーマの重要性を考えると、あまりにも無責任というほかない。この無責任さの背景には、単なる無知・無関心のほかに、「火中の栗を拾いたくない」という逃げ腰な態度が透けて見える。
ルールを見直せば皇位継承資格者が増える
しかし、先の不合理なルールを見直せば、皇位継承資格を持つ皇族の数は現状の3人から8人に大幅に増える(秋篠宮殿下より年齢が若い資格者も1人から6人ヘ)。さらに結婚相手への「必ず男子を生まなければならない」という重圧が緩和されるので、結婚のハードルもその分だけ下がることになる。
このルールの見直しが問題解決に不可欠であることは、政府もおそらく理解できているはずだ。
一夫一婦制で少子化が進む状況下に、もともと側室制度を前提とした皇位継承資格の「男系男子」限定という、明治以来の旧時代的なミスマッチのルールが持続不可能なことは、明らかだろう(世界中でも一夫多妻制の国を除いてほとんど類例がない!)。
国会でも、先のアンケート結果を見ると、“男系男子”に確信的にこだわっている政治家の数は、意外と少ない。無回答・回答拒否を除くと、女性天皇・女性宮家・女系天皇に賛成の国会議員に対して、わずか3分の1程度にすぎない。
にもかかわらず、問題解決がいたずらに先延ばしされ続けてきたのはなぜか。これまでのルールに固執する政治家たちは、必ずしも数は多くないにしても、その見直しに対して頑固猛烈に反対することが予想されるからだ。
そのため、波風を立てたくない多くの政治家は及び腰になり、政府も慎重に構えざるをえなかった、というのが実情だろう。
“宙ぶらりん”が続く女性皇族方
しかし、いつまでも先延ばしはできない。
その決着がつかない限り、適齢期の女性皇族方にとって将来が見えない“宙ぶらりん”の状態がいつまでも続く。
さらに今のルールの下で結婚されれば、ただちに国民の仲間入りをされ、いったん国民の仲間入りをされれば、もはや皇室に戻ることはできなくなる。失礼ながらもし離婚されたとしても、法律上、国民のままだ。
もちろん、制度上の手当ての遅れを理由に、ご結婚を遅らせていただくわけにはいかない。
もはやこれ以上、国会の無為怠慢が許されないところまで来ている。
この現実に、岸田文雄首相もようやく焦りを感じたようだ。今年2月の自民党大会で次のように呼びかけていた。
「日本国民の統合の象徴である皇室における安定的な皇位継承を確保するための方策への対応も先送りの許されない課題であり、国会における検討を進めてまいります」
やっと国会での議論が開始か
しかしその後も、自民党内でそれに応える動きはまったく見られなかった。
そこで岸田氏は、去る9月13日に行われた内閣改造・自民党役員人事の際、党の政策の取りまとめに当たる政調会長に萩生田光一衆院議員を再任した時に、「皇位継承策の作業を急がなければならないという問題意識」を明確に伝えた。
その意向を受けて、萩生田氏も以下のように言明している(産経新聞9月27日付 )。
「(有識者会議報告書の検討を昨年1月に政府から国会へ委ねられて以来)この1年、(自民)党でそれほど動きがなかったので、私のもとで(党内の意見集約を図る)受け皿を作っていかなければならないと思っている」と。
加えて、新しく衆院議長に就任した額賀福志郎氏は10月20日の記者会見で、国会における安定的な皇位継承をめぐる議論を前進させる意欲を示している。「各党の協議の経緯や状況を把握した上で立法府の考え方を整理していく」と(読売新聞オンライン、10月20日、18時43分配信)。
さらに岸田氏は、同23日の国会での所信表明演説の中で「皇族数の確保のための具体的方策」について、「『立法府の総意』が早期に取りまとめられるよう、国会における積極的な議論が行われることを期待します」と訴えた。
やっと国会が重い腰を上げる可能性が見えてきた。
岸田首相の巧妙な表現
岸田氏は令和3年(2021年)9月9日のツイッター(現X)で、この問題について次のように述べていた。
「旧宮家の男系男子が皇籍に復帰する案も含めて、女系天皇以外の方法で検討してまいります」
これはなかなか巧妙な表現になっている。まず、議論を進めようとする場合に最大のブレーキになると岸田氏が考えているらしい、「女系天皇」の可能性をあらかじめ排除する姿勢を鮮明にしている。
一方で、古いルールにこだわる政治家たちが掲げる旧宮家系子孫の皇籍取得を可能にするというプラン「も含めて……検討」と明言した。これによって、彼らも巻き込んで議論を促そうとアクセルを踏んでいるように見える。
ただし旧宮家案「も含めて」ということは、当然、それ“以外の選択肢”も検討することを含意している。それは何か。
提案されている5つのプラン
これまでに提案されている主なプランは次の5つだろう。
① 女性天皇プラン=内親王・女王にも皇位継承資格を認める。男性天皇の場合と同じく、その配偶者やお子様は皇族の身分を保持される。
② 女性宮家プラン=①を踏まえて、内親王・女王が婚姻後も独立した宮家の当主として皇室にとどまられる。男性宮家と同じく、配偶者やお子様は皇族の身分を保持される。
③ 女系天皇プラン=①②を踏まえて、女性天皇・女性宮家の当主のお子様にも、男性天皇・男性宮家の当主の場合と同じく、皇位継承資格を認める。「皇統に属する皇族」に男女の差別なく皇位継承資格を認める。
④ 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分にとどまるだけのプラン=①②と異なり、配偶者やお子様は「国民」と位置づける。有識者会議報告書に盛り込まれたプランの1つ。
⑤ 旧宮家系子孫が現在の皇族と養子縁組をして、新たに皇籍を取得するプラン=有識者会議報告書に盛り込まれたプランの1つだが、その配偶者や養子縁組後に生まれたお子様の位置づけが皇族か国民か、報告書ではあえて言及していない。
これらから消去法で考えると、①「女性天皇」②「女性宮家」④「内親王・女王が婚姻後も皇族の身分にとどまる」という3策が、その候補になる。
欠陥を抱えた選択肢
しかし④は、今回の報告書で新しく提案されたプランだが、あまりにも大きな欠陥を抱えている。
配偶者やお子様が国民の場合、憲法第3章が保障する自由や権利はすべて認められる。政治活動の自由、経済活動の自由、宗教活動の自由など。たとえば、配偶者やお子様本人が国政選挙に立候補したり、民間企業や宗教団体の広告塔になったりしても、すべて“国民として自由”ということになる。
しかし憲法は、天皇・皇室を日本国および日本国民統合の「象徴」と規定しており、国政権能も否定している。しかも社会通念上、配偶者やお子様など“家族は一体”と見られるのを避けにくい。
そうであれば、憲法上の天皇・皇室の地位と、内親王・女王の配偶者やお子様に国民としてあらゆる自由や権利が保障される制度は、両立できない。
岸田氏が「検討」対象に加えると言っている⑤旧宮家プランも、残念ながら現実的な選択肢にはなりえないだろう。
旧宮家系子孫の当事者は、養子縁組によって皇籍を取得した瞬間から、それまで保障されていた国民としての自由や権利の多くを制約される。しかも養子縁組の後、さらに結婚して男子を生まなければ、一体何のための養子縁組だったのかが厳しく問われることにもなりかねない。
それらに対するハードルの高さは、心情的な結合を前提とする結婚による皇籍取得の場合と、事情が大きく異なる。
「特攻隊に志願するほどの覚悟と勇気が必要」なプラン
そのハードルの高さについては、男系維持に強くこだわる論者たちも認めているようだ。たとえば以下のような発言がある。
「(養子縁組プランに同意することは)特攻隊に志願するほどの大きな覚悟と勇気を必要とする決断だろう」(新田均氏『別冊正論Extra.14』)
「復帰(正確には皇籍取得)したいと思っている者はいるわけがありません。……私がベストと思っているのは……(本人にまだ判断能力がまったくない)赤子のうちに(養子)縁組を行うことです」(竹田恒泰氏、7月27日、X)
民間人である旧宮家系子孫に対して、「特攻隊に志願するほどの大きな覚悟と勇気」を求めるプランは、そもそも現実味がないと考えるのが当たり前の感覚ではないだろうか。ましてや、国民同士の養子縁組ならばともかく、皇籍取得のために「赤子のうちに縁組を行う」など、論外だろう。
このプランには、憲法上も人道上も、当事者の同意が当然ながら不可欠だ。にもかかわらず、政府は国会で「そうしたみなさん(当事者)に確認したことはないし、していく考えもない。これは変わらない」〔令和3年[2021年]3月26日、参院予算委員会での加藤勝信官房長官(当時)の答弁〕という趣旨の答弁を、これまで繰り返している。それが虚偽答弁でない限り、すでに政府は(本音として)実現不可能と判断していると考えるほかないだろう。
柔軟で現実を直視する萩生田政調会長のスタンス
念のために、自民党内の意見集約にあたる萩生田氏自身のこの問題への考え方も見ておこう。萩生田氏は以前、インタビューで次のように答えていた(『文藝春秋』平成26年[2014年]6月号)。
「天皇は男系男子が基本だと思いますが、現実問題として、それでは将来的にどんどん道が狭まることは確実です。……宮家の跡取りは、ほとんど女子ですよね。その方たちが結婚して家を出ていかれたら、間違いなく宮家はなくなります。そう考えれば、婿をとる女性宮家もあってもいいように思います。いまは側室を認めろといっても無理でしょうから、そのほうが現実的です」
萩生田氏はよく知られているように安倍晋三元首相の側近中の側近といわれた政治家だが、この発言を見る限り、少なくとも皇位継承問題については比較的柔軟で現実を直視する姿勢がうかがえる。
「愛子天皇」の可能性
これまで述べてきたことを考え合わせると、このたびの皇室典範改正に際してさしあたり実際の選択肢として残りそうなのは、(③「女系天皇」は岸田氏が名指しで除外していたので)①「女性天皇」と②「女性宮家」だろうか。
もちろん、男系男子にこだわる政治家向けに、効果的な“目くらまし”として⑤旧宮家プランを、しばらく検討対象とすることはありえるだろう。
しかし、それが実現する未来はなかなかリアルに思い浮かべられない。
一方で、女性天皇を認める制度化が図られる場合、現在の直系優先の原則(皇室典範第2条)を踏まえると、天皇・皇后両陛下の「長子」でいらっしゃる敬宮殿下こそ次代の天皇という可能性が浮かび上がる。
国会は速やかに皇位継承問題の解決に踏み出すべきだ。