他児養子縁組の促進も、少子化対策ではなく選択肢拡充

次は養子を考えてみましょう。

実は、日本はアメリカと並び、養子縁組の実施数が多い国ですが、中身は両国で大きく異なります。アメリカが児童、とりわけ血縁関係にない幼児(他児養子)が多いのに対し、日本は成人が多く、続いて血縁関係にある未成年の順番になり、他児養子は極端に少なくなります。そうした意味で、子どもが欲しいという人たちにとって、養子という選択肢はまだ小さいといえるでしょう。

この点について、少し考えてみたいと思います。

まず、結婚しているカップルで、子どもに恵まれない場合、現在では各種公的支援が拡充され、先端医療までカバーが広がっています。そこまで手を尽くした上で閉経年齢に近くなり、それでも子どもが欲しいという人は、かなり少なくなっているでしょう。こうしたカップルに対し、養子という手段もあることを伝え、そのために必要な知識などを示唆するような支援活動は大切です。対象となる人数も限られるので、NPOなどを通してこうした活動を手厚くすることもできるでしょう。

【図表4】養子縁組の構成の日米比較
出所=森口千晶「日本はなぜ子ども養子小国なのか」井掘・野口・金子編『新たなリスクと社会保障』、第3章、東京大学出版会、2012年(図表=筆者作成)

特別養子縁組(子どもと育ての親が法律上、肉親と同等な関係になる。虐待・遺棄児童などが対象)については、その数がなかなか伸びず、近年は600~700件で停滞している状況です。不妊治療機関との連携、民間斡旋団体への公的支援、実親の権利関係の法改正、など政府には一段と力を入れてほしいところです。

一方で、未婚者やLGBTカップルの場合、少なくとも特別養子縁組は認められておりません。この点について、議論を重ねても良いのではないでしょうか。

付言しておきますが、これもやはり少子化対策ではありません。なぜなら、国内養子縁組は、今生まれている子どもを縁組するだけの行為なので、総出生数は伸びないからです。あくまでも、子どもが欲しいという人と、子育てに難渋する人、そして不遇な環境にある子どもを救うための福祉的観点での論議となるでしょう。

総出生数の増加と同じ意味を持つ国際養子縁組は、近年、その数が減少しています。これは、ハーグ条約など子どもの権利を守り、犯罪や安易な海外移送を減らすための取り決め締結国が増えていること。そして、一番の養子送り出し国であった中国が、同条約加盟や富裕化により、近年極端にその数を減らしていることが挙げられます。

生涯未婚者には性的少数者がかなり多いのではないか

終わりに、再々度触れさせていただきます。

今回のテーマ、婚外子・養子・精子/卵子提供・代理母は、いずれも、少子化対策としては期待されるほどの効果はありません。これらを合わせて、トータルで出生率は0.1程度伸びるくらいではないでしょうか。

それよりも、自分の主義信条にそって各自が自由に生きる、つまり選択肢の拡大という意味で、視野に入れてほしい課題です。

未婚者も性的少数者も、自分の希望する形で人生を設計できる社会――たとえば現在、性的マイノリティの人は、2~10%もいると言われています。次第に、彼・彼女らの存在が認められ、カミングアウトできる世の中になってきました。そのことが当然、未婚率の上昇(現在はLGBT婚は認められていない)につながっているのでしょう。生涯未婚率が2割に迫ると言いますが、そのうちかなりの割合が、性的少数者で占められているのではないでしょうか。

生涯未婚率を下げようと考えるのであれば、LGBT婚はもはや避けて通れない選択肢です。政府にはそこまでを視野にいれた、まさに「異次元」な対応を望みます。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。ヒューマネージ顧問。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。