「日本型雇用」も最近の話
私が長く身を置いてきた雇用論壇でも、同様の事象が垣間見られます。
「日本型雇用」――終身雇用、年功序列、企業内労働組合という構成要件が初めて世の中で指摘されたのは、1958年上梓の『日本の経営』(アベグレン著)でした。その少し前に発表された『京浜工業地帯』(藤田若雄、氏原治一郎)では、頻繁に工場間を渡り歩く工員の様子が示されています。
ただ、アベグレンが『日本の経営』で指摘した日本型雇用の3条件についても、彼が言及したのはあくまでも、「大規模工場」のみの話です。当時は農業・自営業・家族経営企業の従事者が圧倒的多数であり、アベグレンが指摘した日本型雇用のカバー範囲は小さなものに過ぎません。その後、1960年代に『能力主義管理』(日経連)を通して日本型人事制度の考えが明らかになり、それが1973年発表の『職能資格制度』(楠田丘氏)で確立されました。同時期にOECDの調査により、ようやく、日本型雇用というものが、日本におけるメジャーな人事制度となったと認められています。
やはり、1950年~1970年代に出来上がった「比較的新しい」ものなのです。
「日本古来の◎◎を守る」という話はこの程度のことなのだと、まずは念頭に置いてください。
婚外子を認めれば、出生率は上がるのか
さて最初に、婚外子を俎上に載せることにしましょう。
婚姻関係にないカップルの間に生まれた子どもを「婚外子」「非嫡出子」と呼びます。欧米では、産まれてくる子どものうち、婚外子が占める割合が4~5割、中には6割といった国まであります。そのため、日本でも未婚の母という選択肢を増やせば、出生率が上がるという声は以下のようによく見かけました。
「出生率の高いフランス、スウェーデン、デンマークなどの欧州の先進国では婚外子が5割超。日本は2%。このままだと少子化の加速は確定的」(細野豪志議員、2022年11月22日ツイート)。
しかしこれは誤りです。確かに、人生の選択肢を増やすという意味で、こうした出産が(しっかり制約を設けた上で)認められるというのは、検討すべきことでしょう。でも、少子化が劇的に解決するなんてことは断じてありえません。
まず、婚外子比率が高いスペイン・イタリアなどは日本よりも出生率が低く、ポルトガルも直近では日本並みという事実があります。また、出生率の高かったフランスでも、昨今は婚外子比率の上昇に反して、出生率が急減するという事態に陥っています。
私も参考にさせていただいている独身問題研究家の荒川和久氏は、各国の出生率と婚外子率の相関を取り、「プラスに働く場合もマイナスに働く場合もある」と結論づけております。複雑な事象なので、単純相関だけでは判断はできないでしょうが、一つの有力な意見でしょう。