「自分」を主語にした初めての執筆
一方、仕事の選択という点では「執筆を断らない」を大事にしていました。仕事を受けすぎると質が下がるのではと悩む人もいるでしょうが、経験から言えば、若いころは質より量を追求したほうがいい時期もあると思います。
2020年、私はコロナ禍の中でプレジデントオンラインの連載のお仕事をいただきました。2月からおよそ10カ月にわたって50本近くの記事を、それこそ1000本ノックのように書き続けました。その間、編集者から提案されたテーマをお断りしたことは1度もありません。少々激しめのタイトルにモノを申したことは1度だけありますが……。
それまで執筆といえば一次情報を伝えるだけだったのですが、この連載は世の中の出来事に対して自分の意見を述べるもの。私にとっては「自分」を主語にした初めての執筆で、この連載のおかげで専門家としての覚悟のようなものができました。
私が大きく変わったのはそこからだと思います。特に多くのメディアが日本の将来を悲観的に報じる中、アフターコロナは日本経済の独り勝ちになるとポジティブな目線で捉えた記事はとてもよく読まれ、自分はこのスタンスで意見を言い続けていいんだと、背中を押してもらえたような気がしました。
実は当時の私は結構崖っぷちで、仕事でもプライベートでも孤独な思いを抱えていました。でも、パートナーや子どもがいないということは、逆に言えば何か批判があっても矛先が向くのは私だけ。そう考えると腹が据わり、連載を進めるうちにどんどん自分を出せるようになっていったのです。
今振り返れば、「自分」を主語にしたことで、30代にしてようやく自我に目覚めたのだと思います。そして、どんな切り口にも挑戦したことが自分の幅を広げ、専門性をより高めてくれました。
隠さない、怒らない、執筆を断らない。この3点が、ビジネスにおいて私が大事にしてきたことです。皆さんが仕事をされるうえで、少しでもお役に立つようでしたらうれしく思います。
構成=辻村洋子
京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、金融メディアのシニアアナリストを経て、現在は、一般社団法人日本金融経済研究所 代表理事として企業価値向上の研究を大学と共同研究している。イー・ギャランティ社外取締役。楽待 社外取締役。国会 衆議院 財務金融委員会で参考人として意見陳述し、事業性融資の法案可決に寄与。フジテレビ「LiveNewsα」、読売テレビ「ウェークアップ」レギュラー出演中。
