「属する」から「契約する」へ
実際の雇用においては、その中間のような形態も考えられますし、部分的に導入することもあります。そして、日本においてもジョブ型の雇用を取り入れていく会社が段々と増えつつあります。
そうなると、一つの領域で実績を挙げた人は、より良い待遇を求めて会社を移ることもさらに増えていくでしょう。いずれは、一つの会社に「属する」よりも、自分の能力にふさわしい条件で「契約する」という感覚になっていくと思います。
メンバーシップ型とジョブ型には、それぞれの長短があります。しかし、これからは「メンバーシップの一員になればOK」というわけにはいきません。なぜなら、その制度は日本で人口が増え続けて高度経済成長が続いた時代に確立されたものだからです。
そして、「やればできる」はメンバーシップ型の雇用だからこそ、合言葉になりえたのだと思います。
仮にジョブ型の雇用になれば、能力への要求はハッキリとしてきます。「やってできる」人も、時代とともに「やってもできない」人になるかもしれません。メンバーシップ型の企業なら、「それなりのポスト」を用意することもできたでしょう。
「学び直し」が求められる時代へ
しかし、ジョブ型であれば「できるようになる機会」を提供することが必要になります。それぞれの人が「できること」を探す時代になっていくでしょう。そこで、「学び直し」が求められるようになったのです。
最近では「リスキリング(re-skilling)」という表現になり、政府も推進していくようです。ただし、そういうカタカナ語を広めるよりも、こう宣言した方がいいのではないでしょうか。
「もう、これからは『やればできる』という発想では通用しません」
そう言われて困るのは、根性論だけで威張っているスポーツ指導者くらいだと思います。
「やればできる」という言葉への引っ掛かりを探っていけば、実はこうした働き方の大きな変化につながっていきます。何気ない言葉に違和感をおぼえたら、じっくりと掘り下げてみることで、大きな流れの変化が見えてくるかもしれません。
1964(昭和39)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。博報堂に入社。2004年退社、独立。現在マーケティングおよび人材育成のコンサルタント、青山学院大学経営学部マーケティング学科講師。著書に『電通とリクルート』(新潮新書)など。