実在を把握したら、万が一の時に責任を問われてしまう
形だけの乾杯のあと、ビールを一口含んだところで「別班についてうかがいたい」といきなり切り込んだ。いつものようにBとだらだら呑み始めたら、肝心のことが聞けなくなる、と焦ったからだ。
すると、Bはそれまでとは違った厳しい口調になり、「もう、別班はないんじゃないか」と曖昧な表現で否定。続けて「別班だけじゃないでしょう。あの組織はいろいろ名前を変えているので……」と逃げを打とうとしてくる。
そこですかさず、「そうですね。DIT、MIST、別班、特別勤務班、ムサシとたくさん通称名を持っていますね」と相槌を打つと、「俺よりよく知っているな。あそこは何回も組織改革をしているので、現状はどうなのか詳しくは知らない」とようやく別班の存在そのものについては、率直に認めた。
Bはまさに竹を割ったような、真っ直ぐな性格の“軍人らしい軍人”。差しで眼を合わせ、真剣なやり取りをしている中で、嘘をつくことなどできないことは、わかりきっていた。
その後は、覚悟を決めたのか、別班の海外拠点、海外での情報収集活動について、率直に話してくれた。
「陸上幕僚長に就任前も就任後も詳しく聞いた事はなかったし、聞かないほうがよかった。万が一の事態が発生した時、聞いていたら責任を問われてしまう」
まさに“驚くべき本音”だが、さらに畳みかけるように、陸上幕僚長がどんな責任を問われるのかと尋ねてみた。
別班は自衛官の身分を離れ海外で諜報活動をしている
「もっとも(別班の)彼らは自衛官の身分を離れているので、陸上幕僚長の指揮下ではないので問題はない。万が一のことがあっても大丈夫にしてある」
陸上自衛官の身分を離れる方法については、「詳しくは知らない。知らないほうがいい」と明かした。
別班の収集した海外情報をどう評価するのか、との問いには、「陸上幕僚長は毎日、戦略、戦術情報の報告を受けている。どの情報が別班が収集したものか、駐在武官が収集したものか、情報本部電波部が収集したものかわからないが、そのチーム(別班)の情報も有用と考えていた」と事実上、別班の海外情報収集活動を認めた。
そこで、陸上自衛官が身分を離れて海外で活動することの危険性について質問すると、こう言い切った。
「別に強制されてやっているのではない。俺はオペレーション(運用=作戦)一筋の人間だから本当のことはわからないと思うが、情報職種の人なりのやりがいがあるのだろう。そうでなくては、危険な任務はできない。われわれは軍人だから、危険な任務は日常だ」