レシピではなく、個人に合わせた治療を
参考までに、「不妊治療の名医」と呼ばれる方たちに、その得意とする治療法や医療に関する考え方について、以下、聞いていくことにいたします。
まずは、卵子の若返り(細胞質置換)や無精子症男性の精子培養などに実績を持つ、北九州の折尾にあるセントマザー産婦人科医院の田中温院長です。
田中先生は、「卵巣の活動を活発にし、卵子を育てるプロセスが大切だ」と話します。
「受精する力、育つ力、着床する力。その多くが卵子の状態にかかっているのです。だから、元気な卵子を育てるところに、全力投球が必要でしょう。そのためには、いくつかの排卵誘発剤や超音波刺激などを組み合わせるのですが、レシピに沿った一律な処置では、だめですね。体調、体質、体格で排卵誘発に使う薬や刺激を変えねばなりません。その昔、成功率が悪かったのは、欧米の研究結果をそのまま取り入れていたからでしょう。欧米人と日本人では異なる部分が多いのです。また、同じ人でも、体調や加齢により、それこそ、排卵周期が1回異なるだけで、処置も変えねばなりません」
体格、年齢、FMH値、AMH値、体質などと治療成果のデータを集め、データ分析により、より確率の高い施術を、同院では実現している。その結果、40歳で体外受精を試みた場合の出産率は、1周期当たり13%にも高まり、通常(8.8%)よりも良い成績を上げているといえるでしょう。
未成熟卵の採取と培養
一方、体外受精で定評があり、日本産婦人科学会でPGT-A(着床前胚異数性検査)とPOI(卵巣機能不全)の両小委員会の委員も務めるIVF大阪クリニックの福田愛作院長は、卵子を取り出す(採卵)技術の重要性を唱えています。
「体外受精では卵巣から卵子を取り出します。卵巣の位置や卵胞を取り巻く環境によって採卵が困難な場合があります。とくに40代を超え採卵できる卵子の数が減ってきますと貴重卵子と呼ばれます。そのような場合でも豊富な経験に基づき確実に採卵を行っています。
私たちは未成熟卵子の体外受精(IVM)も実施しています。IVMは採卵の難しさから世界でも限られた所でしか実施できません。IVMは卵巣刺激を行うと卵子が15個以上採れるような、卵巣過剰刺激という危険な副作用を伴う患者さんに行います。通常の体外受精の3分の1ぐらいの大きさの卵胞を穿刺し卵子を採ります。この卵子を体外で成熟させてから体外受精を行うものです。
当院は、IVMで200名近いお子様が生まれている世界でも有数の施設です。特殊な採卵技術を要しますが、IVMは体外受精と同様に保険適用されます。このように採卵技術の高さに基づいて、通常の体外受精では成果が出なかった方の場合も治療成果を上げています」