寿命は延び、心も体も若返っている現代

とはいえ、「40代になって子育ては厳しい」という声が聞かれるのも確かなところです。ここでまた考えてほしいことがあります。今、熟年世代の人たちは思い出してください。その頃の定年は55歳です。だから60歳の人はかなり老けて見えたのではありませんか?

たとえば、昭和の風景を描いた「サザエさん」に出てくる波平さん(サザエさんの実父)は、作中ではなんと54歳! です。対してダウンタウンの浜ちゃん松ちゃんはアラ還です。現代であれば、54歳などまだまだ働き盛りともいえるでしょう。

2015年に日本老年学会が「日本人はここ10~20年で5~10歳若返った」という声明を出しています。それは以下のような調査研究によるものです。

・1996~2011年の厚労省患者調査を用いて、65~79歳の慢性疾患受療率を分析。脳血管障害や虚血性心疾患が10歳若い年齢群と同等レベルになるなど慢性疾患の受療率が低下していた。

・厚労省の国民生活基礎調査、人口動態調査では要介護認定率、死亡率も低下。秋下氏は「5~10歳の生物学的年齢の低下を示唆する」と分析した。

・東京都老人総合研究所の研究から、65歳以上の身体能力を92年と02年で比較。握力は男性4歳、女性は10歳若い年齢群と同等レベルに向上したほか、歩行速度が男女とも0.1~0.2m/秒上昇。特に歩行速度についてものすごく大きな改善し、11歳の若返りが認められた。

・国立長寿医療研究センターの研究を用いて知的機能の変化を調査。「現在の70代の知能検査の平均得点は、10年前の60代に相当する」と評価。

・厚労省歯科疾患実態調査から「20本の歯数は57年で男性50代、女性45歳だが、直近では男女とも65歳」と説明。

いずれも、平成初期と末期を比較したものであり、この短期間で、身体はこれほどまで若返っていると示されています。街中を見れば、ファストフードの店員さんなどは高齢者が主役になっているのが見て取れるでしょう。これなども、平成初期にはありえなかったことです。

ちなみに、健康寿命という概念が2000年にWHOから提唱されました。

医療や介護に依存せずに生きられる年齢のことを言いますが、日本では2001年からこの数値を発表しています。直近2019年と2001年を比べると女性は3.2歳ほど伸びています。昭和の頃にこの数字があったなら、7~8歳は伸びていたでしょう。

ビーチで両手を広げて潮風を満喫する女性
写真=iStock.com/Hakase_
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結婚、出産、育児が10年後ろ倒しになっても帳尻が合う

そう、結婚、出産、育児がそれぞれ10年程度後ろ倒しになったとしても、人生は帳尻が合うのです。もちろん、それでも結婚も出産も嫌な人はそれでかまいません。40歳で結婚して、45歳までに子どもを産むのでも、人生は帳尻が合います。

それでもまだ、「女性は更年期障害があるから大変だ」という声が聞こえそうです。が、それこそ、昭和のようなワンオペ育児をせず、夫婦で力を合わせて解決すれば良いのではありませんか?

ここで、政治や行政に携わる人にも声を大にして言いたいことがあります。

出生率回復を最重要課題に掲げるなら、40代前半の出生率を戦前並みに戻すことも一策でしょう。それだけで、合計特殊出生率は0.3ポイントも上がります。大正並みならそれは0.4ポイントアップとなるでしょう。

「早く産むべき」は正論ですが、それは30歳までの女性に言うべきであり、その先、焦ったり諦めたりする女性たちには、「可能性はまだまだあるけど、急ぎましょう」とメッセージを二本立てにしてはどうでしょうか。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。