「数さえ満たしていれば」という障害者雇用の実情

会社で長時間作業をすることが難しい臼井さんは「現在でも自分がつらいなと思ったときは就労支援員などに相談している。社内で自分がつらいと口に出しても許される環境なので助かっている。一度は辞めようと思ったこともあるが、今はセキュリティエンジニアとして仕事を続けていきたいと思っています」と話を締め括った。

彼の上司にあたる高橋さんは臼井さんのことを「会議などがあると彼は毎回議事録をしっかりと作成してくれるので助かっています。職場でもリーダーシップを発揮していますね」と臼井さんの特性を理解し、評価している。

「INNOVA初台」では社員と支援機関と定期的な二社・三者での面談を実施し、社員の状態を把握するよう努めている。

働きづらさを抱える人がその職場に定着するためには採用後も一人ひとりを見守り、働きやすい環境を提供するきめ細やかさが求められる。

しかしそれができず、「数さえ満たしていれば」と通称「ロクイチ報告」(※)を提出している企業もあるのではないかと推察される。

障害者の雇用率だけを重視するのではなく、社員のキャリア形成の支援や定着率を上げるための取り組みや努力について、もっと評価がなされてもよいのではないだろうか。

働きづらさを抱える人が戦力として活躍できる場が日本でも増えることを期待する。

※「ロクイチ報告」は「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第52条第1項」、「障害者の雇用の促進等に関する法律第43条第7項」のことで、従業員43.5人以上規模の事業主は毎年6月1日現在の高年齢者及び障害者の雇用状況を厚生労働大臣に報告(提出は事業所所在地管轄のハローワーク)することが法律で義務付けられている。正当な理由なく障害者雇用が進まなかった場合は「雇い入れ計画作成命令」の対象となる場合があり、改善されない場合は厚生労働省のホームぺージ上で公表され、指導が行われることになる

小山 朝子(こやま・あさこ)
介護ジャーナリスト、介護福祉士

小学生時代は家族を支える「ヤングケアラー」で、20代からは洋画家の祖母の在宅介護を担う。現在は介護ジャーナリストとして活動を展開。この間、高齢者・障害者・児童のケアを行う全国の宅老所などを取材。2013年より東京都福祉サービス第三者評価認証評価者として、「生活介護」、「就労継続支援A型・B型事業所」などで調査・評価活動も行ってきた。日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、All Aboutガイドも務める。著書に『世の中への扉 介護というお仕事』(講談社、2017年度厚生労働省社会保障審議会推薦 児童福祉文化財)、『ひとり暮らしでも大丈夫! 自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)など。