障害者雇用を「外注」する問題点
「独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構」の調査によると、精神障害者のうちのおよそ50パーセントが1年以内に退職していることがわかった。「INNOVA初台」では、1年以内の退職者はいないという。
民間企業における法定雇用率は、2023年4月より2.7%に引き上げられたが雇い入れに係る計画的な対応ができるよう2023年4月から1年間は2.3%で据え置きとなった。2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%と段階的に引き上げとなり、そのハードルは高くなっている。
障害者雇用を行う多くの企業の担当者が頭を抱える課題が障害者のための業務の創出、いわゆる「業務の切り出し」である。従来企業内で切り出していた業務としては清掃、配布資料のホチキス止め、複合機のコピー用紙の補充、郵便物の仕分けなどだ。
筆者は10年ちかくにわたり、社会で働く障害者に聞き取り調査を行ってきた。調査では「本当は接客業をしたいのだけれど……」という女性の声や「パソコンを使った作業をしたいけれど、そういう仕事はなかなかさせてもらえない」といった車椅子ユーザーの声などをたびたび耳にしてきた。
雇用のミスマッチを減らすために
精神障害者のおよそ50パーセントが1年以内に退職しているという調査結果の背景には、企業が「善処」して切り出した業務と働く側の希望のミスマッチもあるのではないだろうか。無論、障害の有無に関わらず、多くの人は自分が望む業務に就いているわけではない。しかし、入社した会社で働くつもりが「別の会社で農業をしてください」と命じられるケースはそうそうないだろう。
「農園型の障害者雇用で救われている障害者や家族もいるので一方的に批判はできませんが……」
そう話すのは大手企業の特例子会社で採用を担当する大野泰平さんだ。大野さん自身も脳性麻痺で車椅子を使いながら暮らしている。
「一般の就労形態で働きたいのであれば障害者自身が自分の強みを企業側に伝えることも大事だと思います。一口に障害者といっても、一人ひとり障害も違えば、性格も違う。自分の長所と短所、得意なこと、苦手なことを伝えなければ企業側もどのような業務を任せられるのかわかりません。自分の強みを伝えるには、まずは自分で自分を知ること、自己覚知が求められます。さらにいえば、自分の障害についてどの程度理解し、受容できているか、自分のことを評価する視点も必要でしょう」
自分の強みを伝えることが難しい場合には、障害者総合支援法に基づく就労移行支援サービスやジョブコーチ(職場適応援助者)を活用する方法もあると大野さんは言う。