民間企業における障害者の法定雇用率は、段階的に引き上げられることになっている。しかし現場では企業と人材のミスマッチなどによる離職率の高さが問題となっている。ジャーナリストの小山朝子さんが、引きこもり歴や適応障害がある人材を採用し、高い定着率を誇る「INNOVA初台」を取材した――。

1000人の従業員の8割が何らかの発達障害がある

働きづらさを抱える人の職場を国内外で取材している。

オランダにある「ブラウニーズ&ダウニーズ」は、働くスタッフの多くがダウン症。
オランダにある「ブラウニーズ&ダウニーズ」は、働くスタッフの多くがダウン症(筆者撮影)

オランダのDen Bosch(デンボス)という街の人通りの多いエリアにある「ブラウニーズ&ダウニーズ」というカフェに立ち寄る機会があった。同店のイチオシは店名にもある「ブラウニー」で、最大の特徴は店舗で働くスタッフの多くがダウン症であることだ。現在は1000人を超える従業員を雇用しており、うち8割はダウン症など何らかの発達障害があるという。オランダのさまざまな街にチェーン店があり、その数は50以上にのぼる。

過去にはオランダ国内の外食産業を対象とした「フードサービスアワード」でグランプリを獲得した実績もある。マクドナルドやドミノピザ、サブウェイといった大手飲食チェーン店にも勝る国民の圧倒的な支持を得て受賞したそうだ。

SNSでスタッフの姿を積極的にPR

席に着いてテーブルに備えてあるメニューを見ると、満面の笑みを浮かべたダウン症のスタッフのカラー写真が多用されていた。壁には「WALL OF FAME」の文字とともに、誇らしげな表情のダウン症のスタッフの写真が額に入って飾られている。「ダウン症であることが自分たちの特権」と言わんばかりの店内の演出に圧倒された。インスタやTikTokなどでは明るいスタッフの姿を前面に出して積極的にPRを展開している。

壁にはスタッフの写真が並ぶ
筆者撮影
壁にはスタッフの写真が並ぶ

私達は店内の一番奥の席に座ったが、隣のテーブルではダウン症の若い女性がフォークやナイフなどのカトラリーを布巾で拭いていた。ややふてくされたような表情を浮かべて休み休み作業をしていたが、彼女に厳しい視線を向ける人はいなかった。企業全体がダウン症のスタッフ一人ひとりの「独自性」を全面的に受け入れている姿勢がうかがえた。