1400年の歴史をもつ短歌が文芸として抱える課題

短歌は、1400年の歴史をもつ世界でも例の少ない文芸ジャンルである。時代を代表する新しい歌人には、この伝統と対峙たいじするものが求められる。正岡子規においてそれは「写生の歌」であったし、与謝野鉄幹にとっては「我の歌」であった。彼らはそうしたテーゼのもとで、新しい伝統を作ったのである。

今の若者が、世相を反映し、自分の身の丈にあったおもしろくも悲しくもある作品を生み出していることは良いとして、では、彼らは1400年の伝統に向き合えるだけの力を、主題を、韻律を養っているだろうか。これは大きすぎるほど大きな問題ではあるが、私たち年長者は皆、これにチャレンジしてきたし、心ある歌人は今もしているのである。

私自身、期待の目をもって、わくわくしながら彼らを見続けたいし、自分の歌もさらに新しいものにしていきたいと思う。

記事内で紹介した歌集
撮影=プレジデントオンライン編集部
坂井 修一(さかい・しゅういち)
歌人、東京大学副学長

短歌結社「かりん」編集人。現代歌人協会副理事長。東京大学Q短歌会顧問。角川短歌賞などの選考委員を務める。研究者としての専門は情報理工学。東京大学大学院情報理工学系研究科教授であり、2021年4月、東京大学副学長・附属図書館長に就任。著書に『実践 コンピュータアーキテクチャ』など。短歌関連の著書に『ここからはじめる短歌入門』『うたごころは科学する』などがある。