山上被告がツイートした2000年のヒット曲
山上徹也被告が、安倍晋三元首相銃撃事件に至る直前まで「silent hill 333」とのTwitterアカウントから発信し続けていたツイート、全1364件。山上は、その中で鬼束ちひろによる2000年のヒット曲、「月光」の動画リンクをツイートしていた。
「私は神の子」「こんなもののために生まれたんじゃない」と歌う女性アーティストへ強い共感を見せ、山上のツイートの中でもひときわエモーショナルだ。久々に聞く鬼束の切々とした歌声が、訴えるように祈るように虚空へ伸びてゆくのを感じながら、私は「そういうことか……」と、事件発生以来1年間抱き続けていた疑問がようやく解け、納得できた気がした。
「こんなもののために生まれたんじゃない」。人生に対する山上の絶望の水位は、襲撃実行の2年半前の時点で、そんなところまで上がっていたのだ。そして、そこから始まったのだ。
全ツイートを分析した書籍
「silent hill 333」の全1364ツイートを完全分析した書籍『山上哲也と日本の「失われた30年」』(五野井郁夫・池田香代子 共著/集英社インターナショナル)が刊行され、話題を呼んでいる。自らも宗教2世である政治学者・五野井郁夫と、『世界がもし100人の村だったら』著者でドイツ文学の翻訳者である池田香代子。彼ら2人が、山上被告と世代的な明暗の経験を等しくするロスジェネ世代(90年代後半から2000年代前半の就職氷河期に社会に出た世代の呼び名)が真に人生から失ってきたものとは何だったのか、を真摯に論じる意欲作だ。