社会の逆風に負けず、毎日の生活で幸福を得るには
本書は、シングルの増加という社会現象そのものだけを扱うのではない。実際の社会の変化は、現象自体に対してのディスカッションよりも、もっと先に進んでいる。
本書は、「シングルであること」の次の段階へ進む。つまり、この進行中の世界的現象の一員である人たちが、よりよい生活の質を享受できるようなメカニズムを探る本だ。
本書では、以下の疑問について検討していく。
・シングルは、ひとりで老いていくことへの恐れにどう対処すべきか?(第2章)
・シングルは、社会的プレッシャーや差別にどう立ち向かうべきか?(第3章)
・社会的な活動は、カップルの人たちの場合と比べて、シングルの幸福のためにどう役に立つか?(第4章)
・個人主義と脱物質主義に根ざした価値観は、シングルの人たちが自分たちのライフスタイルを尊重して生きていくためにどんな助けになりうるか?(第5章)
・シングルのワーク・ライフ・バランスのために、個人、そして職場は何ができるか?(第6章)
・人生の満足度の向上を考えるとき、人間関係や制度、サービスといった面で、シングルにはどのような未来が待っているのだろうか?(第7章)
・政策立案者たちはシングル人口の増加に対処し、彼らのウェルビーイング向上のために何をするべきか?(第8章)
これらの疑問のほとんどが、シングルについての学術的研究の分野では、これまで扱われてこなかったものだ。
今までの研究は、このような重要な問題を避ける代わりに、下落する結婚率と出生率、上昇する離婚率と並んで、シングルの増加という現象そのものを計測し、観察することに専念してきた。
同時に、有力なメディアや自己啓発業界は、孤独を避ける方法を推奨してきたが、それは総合的な研究にもとづいたものではなかった。
だからこそ本書では、これまでの研究の分類的な設問を超えて、どうしたらシングルの人たちが社会の逆風に負けず、毎日の生活で幸福を得ることができるかを検討していく。
このような調査の過程で、これまでのシングルに対する決まりきった見方を支持する証言、あるいはそれを否定する証言も得られるだろう。
若いシングルのニーズに応える道を模索せよ
本書には、もっと野心的な目的もある。
それは、読者の皆さん一人ひとりに新しい現実について考えてもらうことだ。今では世界中の人々が社会生活、家庭生活を新しいやり方で営むようになっている。それこそが新しい現実だ。
本書では、幸福なシングル生活の時代を迎えるために、増加するシングル人口に特有のニーズを分析し、数多くの先駆的な提案を紹介していく。
たとえば、革新的な生活環境、コミュニティー、社会交流などだ。したがって、読者の方々には自分が最も関心のある章から先に読んでもらってかまわない。
今はまだ、声の聞こえない少数派であるシングルの人たちも、じきに発言力のある多数派になる。
世界各国の首都圏で、シングル向け住宅の家賃の高騰、同居パートナーの法的地位の不明瞭さ、シングルペアレントの困窮、離婚した人たちの税制上の権利などの問題について、デモがおこなわれている。
たとえば、東京では、「Call For Housing Democracy/住宅政策にデモクラシーを」という団体により、政府に対して家賃の引き下げを要求するデモがおこなわれた。デモを開催した人々は、「ジャパン・タイムズ」紙にこう語っている。
東京で公営の住宅に入居できる確率は、家族の場合は20分の1だが、単身者は57分の1で、しかも、政府が意味するところの「単身者」とは引退した人たちのことだ。若くて未婚の人たちは、いくら収入が少なくても、公営住宅に入居できるチャンスはゼロだ(※13)。
このような抗議活動がおこなわれることからも、シングルの人たちの幸福とウェルビーイングに寄与する要因を検討することが、ますます重要かつ緊急なものになっていることがわかる。政策立案者たちは、このようなニーズに向き合い、彼らのような若いシングルのニーズに応える道を探さなくてはならない。
そういった意味で本書は、行動を呼びかける本でもある。
これまで独身者を不利な状況に置かれているマイノリティーととらえてこなかった研究者たち、政策立案者たちには、彼らの人数が増えていること、彼らが数多くの偏見や差別と闘っていることをよく考えてほしい(※14)。
ずっと無視されてきたシングルたちよ、今こそ立ち上がるときだ。
シングルの人たちに特有のニーズ、ライフスタイル、住環境に社会がもっと配慮を向けるのは当然のことなのだ(このことについては、本書で詳しく述べている)。
私が望むのは、本書がシングルの人たちへのささやかな貢献になることだ。彼らはまさに目覚めたばかりの巨人なのだ。
※1. Bella M. DePaulo and Wendy L. Morris, “The Unrecognized Stereotyping and Discrimination against Singles,”Current Directions in Psychological Science 15 , no. 5 (2006): 251-54.
※2. Todd M. Jensen, Kevin Shafer, Shenyang Guo, and Jeffry H. Larson, “Differences in Relationship Stability between Individuals in First and Second Marriages: A Propensity Score Analysis,” Journal of Family Issues38, no. 3 (2017): 406-32; Megan M. Sweeney, “Remarriage and Stepfamilies: Strategic Sites for Family Scholarship in the 21st Century,” Journal of Marriage and Family 72, no. 3 (2010): 667-84.
※3. Stephanie S. Spielmann, Geoff MacDonald, Jessica A. Maxwell, Samantha Joel, Diana Peragine, Amy Muise,and Emily A. Impett, “Settling for Less out of Fear of Being Single,” Journal of Personality and Social Psychology 105, no. 6 (2013): 1049.
※4. John T. Cacioppo and William Patrick, Loneliness: Human Nature and the Need for Social Connection (New York: W.W. Norton, 2008)[ 『孤独の科学 人はなぜ寂しくなるのか』ジョン・T・カシオポ, ウィリアム・パトリック著,柴田裕之訳, 河出書房新社(河出文庫), 2018年].
※5. Ibid.; Berna van Baarsen, Tom A.B. Snijders, Johannes H. Smit, and Marijtje A.J. van Duijn, “Lonely but Not Alone: Emotional Isolation and Social Isolation as Two Distinct Dimensions of Loneliness in Older People,”Educational and Psychological Measurement 61, no. 1 (2001): 119-35.
※6. Shelley Budgeon, “Couple Culture and the Production of Singleness,” Sexualities 11, no. 3 (2008): 301-25;Richard Fry, “A Rising Share of Young Adults Live in Their Parents’ Home,” in Social Demographic Trends Project (Washington, DC: Pew Research Center, 2013); Eric Klinenberg, Going Solo: The Extraordinary Rise and Surprising Appeal of Living Alone (New York: Penguin, 2012)[ 『シングルトン ひとりで生きる!』エリック・クライネンバーグ著, 白川貴子訳, 鳥影社, 2014年].
※7. Wendy Wang and Kim C. Parker, Record Share of Americans Have Never Married: As Values, Economics and Gender Patterns Change (Washington, DC: Pew Research Center, 2014).
※8. National Bureau of Statistics of China 中華人民共和国国家統計局,2013年 “China Statistics: National Statistics”(Beijing: National Bureau of Statistics of China, 2013).
※9. Eurostat, “Urban Europe-Statistics on Cities, Towns and Suburbs,” (Luxemburg: Publications Office of the European Union, 2016); Euromonitor, Downsizing Globally: The Impact of Changing Household Structure on Global Consumer Markets (London: Euromonitor, 2013).
※10. Paul R. Amato, “Research on Divorce: Continuing Trends and New Developments,” Journal of Marriage and Family 72, no. 3 (2010): 650-66; Wendy Wang and Kim C Parker, Record Share of Americans Have Never Married: As Values, Economics and Gender Patterns Change (Washington, DC: Pew Research Center, 2014).
※11. Eric Klinenberg, Going Solo: The Extraordinary Rise and Surprising Appeal of Living Alone (New York:Penguin, 2012)[ 『シングルトン ひとりで生きる!』 エリック・クライネンバーグ著, 白川貴子訳, 鳥影社, 2014年].
※12. Terrence McCoy, “Do It for Denmark!” Campaign Wants Danes to Have More Sex: A Lot More Sex,”Washington Post , March 27, 2014, www.washingtonpost .com/news/morning-mix/wp/2014/03/27/do-it-fordenmark-campaign-wants-danesto-have-more-sex-a-lot-more-sex/?utm_term=.d8e6eef47764.
※13. Philip Brasor and Masako Tsubuku, “A Rise in Vacancies Won’t Mean Drops in Rent,” July 2, 2016, www.japantimes.co.jp/community/2016/07/02 /how-tos/rise-vacancies-wont-mean-drops-rent/#.WmN_R6iWbg8.
※14. Vivian E. Hamilton, “Mistaking Marriage for Social Policy,” Virginia Journal of Social Policy and the Law 11(2004): 307-71.
イスラエル・ヘブライ大学の公共政策・政府学部で教鞭を執る。マイノリティー、社会政策、シングル研究が専門。米国・コロンビア大学で社会学の博士号を取得したほか、カウンセリング、公共政策、社会学の3つの修士号を有する。リーダーシップ、移住、社会・教育政策、エスニック・マイノリティー、グループ・セラピー、シングルなどのテーマで、多くの記事・書籍を執筆・編纂している。