「シングルでいること」の豊かさに気づいていない

私の研究からわかったことは、不幸せなシングルと不幸せな既婚者の違いは、多くの場合、後者のグループは結婚しなければならないという社会的、心理的なプレッシャーに屈した人たちだという事実にほかならない。どちらのグループも不幸せで、耐えがたい状況にとらわれている。

前者を苦しめているのは「結婚していない」という汚名スティグマを着せられることそれ自体だ。一方、後者はシングルが世の中で一般的になりつつあるのを目の当たりにし、「結婚」という自分の選択が良かったのかどうかに頭を悩ませている。

本書で注目したいのは、結婚しなければならないという社会的、心理的なプレッシャーと、世界中で結婚という制度や慣習を放棄し、シングルとして生きる人が増えているという現実とのあいだのギャップだ。

私たちはしばしば、自分では意識していなかった行動をしていることに気がつくことがある。自分ではあることを考えているのに、それとは別のことをやっていたりする。

「カップルでいること」がいいと思っているのに、「シングルでいること」が現実だったりする。私たちはまだ、自分自身の本当の感情と、社会的規範に強制されてとっている態度のつながりをよく理解していないのだ。

このような状況が起きるのは、多くの人々がまだ「シングルでいること」を受け入れるのを恐れているからだと私は考えている。

人々は「シングルでいること」を今もなお否定的な目で見ている。いや、むしろ、シングルという生き方がもつ豊かな可能性にまったく気づいていないというべきかもしれない。

自分にとって「正しい選択」をするには

本書の役割は、「シングルとして生きること」を受け入れ、称賛する人が増えているという、その現象の背後にあるメカニズムに光を当てることだ。

シングルの生き方に対して、もっと明確で、よりよいイメージをもつことができれば、誰もがもっと自由に、自分に適したライフスタイルを選べるようになる。もちろん、それでもやはり、結婚を選ぶ人たちもいるだろう。

その場合でも、今よりリラックスした状態で結婚という選択ができるようになり、自分にとって正しいタイミングかつ正しい状況で、結婚生活に入ることができる。

よく考えたうえでの決定であれば、結婚を選ぶ人たちにとっては、よりよい結婚になるだろうし、ひとりでいることを選ぶ人たちも、より満足していられるだろう。

一方で、シングルでいることによって、一人ひとりの幸福とウェルビーイング(健康と安心)が増す可能性も非常に高い。こうしたことを知れば、「シングルという生き方は世の中の規範から外れることだ」と批判されてきた人たちも心休まるのではないだろうか。

実際のところ、シングルの増加という現象は最近始まったことではない。多くの研究者が結婚率の低下について論文を書いているし、政策立案者たちも現代の家族のあり方の変化に注目している(※11)

たとえば、デンマーク政府は国民に対して、「結婚し、もっとセックスしよう」と呼びかける広告キャンペーンを開始したほどだ(※12)

アメリカでは、メディアもこのような変化を扱ってきた。テレビドラマの『となりのサインフェルド』(1989~1998)、『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998~2004)、『GIRLS/ガールズ』(2012~2017)、それに『ワタシが私を見つけるまで』(2016)などの映画もある。