大河ドラマのように苦労して悩む家康像は現代に通じる
歴史小説を書く場合。読者は現代人なので、現代の価値観からも何かしらの共感を持ってもらわなければなりません。江戸は元来が、かかあ天下の土地柄だったし、出稼ぎの町で圧倒的に女性が少なかったので、特に女性の再婚、再再婚は珍しくありませんでした。その辺の感覚は、むしろ現代に近い気がします。男尊女卑という考え方も、徳川の世が終わった後の明治以降に醸成されたように思えてなりません。西国の侍たちが東京で新政府の役人になって、東国に持ち込んだのではないでしょうか。
そんなことで多くの女たちと関係を持った家康ですが、力のある男性ですから、女性たちにとっても魅力的だったことは容易に想像できます。
秀吉は天下を取ったのが偉いわけですが、家康は天下を治めたことが最大の業績です。合戦に勝ち残ったのが偉いわけではなく、江戸幕府のシステムを確立して平和な世の中を270年続くようにしたのが、やはりすごいと思います。これまでの徳川家康像は、立派で正々堂々と家臣たちを引き連れてリーダーシップを発揮して……というふうな描き方で誰もが納得したけれど、やっぱり今の時代は誰もがいろいろと悩みながら生きているし、そうして苦労して悩む家康というのが、今日の存在意義として見られるのだろうと思うわけです。
それでいて、肖像画からもわかるように目に活力が充満していて、デキる漢で……そうした経歴を踏まえて肖像画を見ると、なかなかのイケメンでもある。大河ドラマで、目が印象的な松本潤さんが家康を演じているのも、私は納得して観ています。
取材・構成=春日和夫
静岡市出身、在住。東京女子大学史学科卒業後、婦人画報社編集局入社。7年間の在米生活、建築都市デザイン事務所勤務などを経て、フリーランスのライターに。2003年『桑港にて』で歴史文学賞受賞。2009年『群青 日本海軍の礎を築いた男』で新田次郎文学賞受賞。同年『彫残二人』で中山義秀文学賞受賞。『イザベラ・バードと侍ボーイ』(集英社文庫)が発売中。『梅と水仙』(PHP文芸文庫)が5/9に発売。新刊『鹿鳴館の花は散らず』(PHP研究所)が7月に発売予定。