被害を受けた子どもはさまざまな問題に苦しめられる
もう一つは支援です。日本は諸外国と比較し、圧倒的に性被害を受けた子どもの支援が足りていません。小児性被害は犠牲になるのが子どもであるという特性から、子ども専用の性暴力ワンストップセンターであるChild Advocacy Center(CAC)が必要と世界的にいわれています。
米国では、小児性被害の正確な把握は、その犯罪の特性から難しいとされていますが、米国は「これくらいの小児性犯罪が存在しているだろう」と推測した上で対策を立てています。その結果、米国ではCACが900施設以上ありますが、日本では全国で3施設しかありません。
小児性被害を受けた子どもは、生涯を通じてさまざまな問題に苦しめられることがわかっています。不安、怒り、罪悪感、うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、成人後の不適切な性行動などです。
また、精神的な問題だけでなく、生活習慣病の発症も高め、心臓や肝臓などの病気の発症率も高くなることが知られています(※7)。大切に育てた子どもが性加害を受けて心身ともに被害を受けるのは、親として何としても避けたいところです。
社会全体で対策に取り組む必要がある
公衆衛生学で名高い米国ジョンズ・ホプキンス大学・ムーア小児性被害対策センターのElizabeth Letourneau氏はこう言っています。
「小児性被害は100%予防可能な社会解題です。ただし、それは社会全体で対策に取り組めばの話です」
子どもの人権を大切にしよう、子どもの声を聞こうと叫ばれる中、これだけ子どもの人権が侵害される小児性被害を、社会としてこのまま放置し続けているのは非常に残念です。世界で示された小児性被害のデータを見つめ直し、加害者の特性を理解した上で社会全体で対策を立てていく必要があります。
※7 Felitti VJ, et al. “Relationship of childhood abuse and household dysfunction to many of the leading causes of death in adults. The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study.” American Journal of Preventive Medicine 1998:14:245–258
日本小児科学会専門医/日本周産期新生児学会・新生児専門医。小児公衆衛生学者。富山大学医学部卒業後、都市部と地方部の両方のNICUで新生児医療に従事する。Twitterアカウント「ふらいと」(@doctor_nw)やニュースレターを通じて、医療啓発を行いつつ子どもの社会問題を社会に提起している。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を務める。監修書籍に『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』『ぼくのかぞく ぼくのからだ』など。