半数が証拠不十分などで不起訴に
ほかにも驚くべきデータがあります。
よく小児性加害者が不起訴になっているニュースを見かけることがあると思います。2021年に行われた、子どもの性被害に特化した実務者を対象とした実態調査(※5)で、小児性被害35名の、実に半数が証拠不十分などで不起訴となっています。
特徴的な出来事や物的証拠がないことを理由に「日時の特定ができない」との理由で、半数が無罪放免とされています。これにはカラクリがあり、子どもが法廷で性被害を受けた事実を自ら開示することを求められるからです。その開示ができないと、証拠不十分として起訴できないことになっています。
そもそも、性被害を受けた子どもが、複数の大人が集まる法廷で被害状況を開示することは、簡単なことではありません。
よく性加害者は「子どもとの間に合意があった」と言いますが、子どもはそもそも成長と発達の過程上にあり、法的に整合性のある同意を表明できないのは明らかです。
世界では、子どもの性被害の開示に関する研究(※6)が進められています。子どもの性被害開示には年代によって特徴があり、幼稚園児は小学生や中高生と比較して、開示できる割合が低い傾向にあります。
また、幼稚園児や小学生は、開示する相手は信頼する大人が多いですが、中学生以上は大人よりも、仲間に被害を開示する傾向にあります。性被害を受けた子どもを支援する場合、このような子どもの開示の傾向を知っておくことは大切です。
男性がカギになる
ではこの無法地帯の日本で性被害から子どもをどうやって守っていけばいいのでしょうか。これは、予防と支援の両輪が大切といえます。
年々小児性加害者の取り締まりは厳しくなっているとはいえ、諸外国と比べ対策は不十分です。そんな中では、子どもに自分自身を守る予防法を伝えていくのがまず第一歩目です。おしり、性器、胸はもちろんのこと、口を触られた時の対応を家庭内で教えていく必要もあります。前提として体は自分のもの、信頼できる人でも勝手に触ってはいけない・触らせてはいけないことを伝えていきましょう。
そして、同じくらい大切なのは、周囲の大人が小児性被害について正確な知識をつけていくことです。
小児性被害を啓発していると、女性よりも男性の危機認識が低いケースが散見されます。しかし、個人的に小児性被害の課題解決のキーパーソンは、男性だと思っています。男性は性被害を受けにくい性別なので無理もありませんが、男性が小児性被害の実態を把握し子どもたちを守るために行動できるかは、非常に重要なポイントです。「うちは男の子だから大丈夫」という認識は、小児性被害の実態と乖離していると言わざるを得ません。
※5 飛田桂「子どもの性被害への対応に関する実態調査」2021年3月22日
※6 Kogan, S. M. “Disclosing unwanted sexual experiences: Results from a national sample of adolescent women.” Child Abuse&Neglect, 2004; 28(2), 147–165