知られていない小児性被害の実態

普段私は小児性被害者支援団体と協働し、こうした小児性被害の問題解決に取り組みながら、SNSでこの問題を啓発しています。SNSでの反応を見ると、この問題は人によって認識の差が大きいです。なぜなら小児性被害の実態やデータが世間に認識されていないからです。

昔も小児性被害の事件は確かに存在しましたが、全国ニュースになるのは非常にまれでした。昔報道されたのは、強制わいせつの上殺人遺棄されたなど、悪質性の高いものばかりでした。

しかし、昨今はSNSの普及もあり、小児性被害の報道が頻繁に流れるようになりました。そのたびに、人々は被害に遭った子どものことを思い感情的な反応を示します。加害者に対して「去勢しろ」「刑務所から出てくるな」など実に厳しい声が飛び交います。子どもが犠牲になる事件なので感情的になる気持ちは理解できますが、これでは何の解決にもなりません。去勢して男性器がなくなっても性加害はできますし、刑務所に次々入れても加害者は一定数いるのでキリがありません。

1人が生涯で380人に加害

海外でも国内でも小児性被害に関する調査や研究が進んでいます。今回はこの辺りをエビデンスとしてお伝えしていこうと思います。

まず、これは小児性被害界隈では有名な数字になってきていますが、「380人」という数字があります。これは米国研究者が1987年に提示した数字で、未治療の小児性加害者が生涯に出す犠牲児童の数(※1)です。常習性が高いこと、そして初犯から発覚まで14年かかるというデータ(※2)などから、犯行が繰り返された結果となります。これは成人の性被害と比べ、小児性被害はグルーミングの中で起きる割合が高いからといわれます。グルーミングは性加害者が性的な目的で子どもに近づき親しくなることを指します。

では実際に、日本でどれだけ小児性被害が起きているかという話です。警察庁の「令和3年(2021年)犯罪統計資料」によると、0~19歳の強制性交と強制わいせつを合わせて年間2581件発生しており、これは1日にすると7.07件となります。日本では1日に7件の未成年性被害が起きていることになります。1日7件は結構衝撃的な数字ですよね。

男子も狙われる

また性被害を受けた子どもの男女比は世界のデータでもバラバラ(※3)ですが、2009年に22カ国で行われた65件の研究を分析した報告(※4)では、18歳になる前に男の子の7.9%、女の子の19.7%が性被害に遭ったとされました。

男女比は1:2となります。意外と男の子の性被害の割合が多いことに気が付くと思います。これは「男の子は安全」という神話がちまたで広がっているからです。実際に男の子自身も男の子の家族も、女の子と比較してガードが緩く、危機意識も低いことが多いため、非常に狙われやすいのです。「本当は女の子がよかったけど、男の子の方がガードが弱いから狙った」と答える小児性加害者もいるほどです。

※1 Sally Squires, "Who Would Sexually Abuse a Child?" The Washington Post, June 18, 1986
※2 斉藤章佳(2019).『「小児性愛」という病 それは、愛ではない』(ブックマン社)
※3 Singh MM, et al. “An Epidemiological Overview of Child Sexual Abuse.” Journal of Family Medicine and Primary Care 2014;3(4):430–435
※4 Wihbey J. “Global prevalence of child sexual abuse.” The Journalist's Resource, November 15, 2011