「106万円の壁」になっても“第3号”にとどまる人が半数

実は政府も“第3号被保険者包囲網”というべき被用者保険の適用拡大を進めている。①週所定労働時間20時間以上、②月収8万8000円以上(年収106万円以上)、③雇用期間2カ月以上見込み――等の人を対象に社会保険(厚生年金・健康保険)への加入を義務化するものだ。すでに従業員501人以上の企業は2016年10月から義務化されている(③については2022年10月から)が、2022年10月には従業員100人超の企業に拡大され、来年10月には50人超の企業にも拡大される。

該当する企業で働く人は、従来の130万円の壁から106万円とハードルが高くなったことになる。

では実際に壁を越えて働く人が増えたのか。労働政策研究・研修機構の「社会保険の適用拡大に伴う働き方の変化等に関する調査」(2022)を見てみよう。昨年10月の適用拡大によって被用者保険に加入または加入回避した第3号被保険者の内訳は、「時間延長して加入」した人は20.8%、「働き方は変わらず加入」した人が31.2%だが、「時間短縮して加入回避」した人が48.1%もいた。第3号被保険者を抜けて「第2号被保険者」に移行した人も多いが、一方で約半数が加入を回避している。

一定の効果はあるが、それでも就業調整する人は依然として少なくないのが実態だ。

正社員と非正規社員の賃金格差を温存することになる

流通系労働組合の幹部は「依然として収入の壁の問題が立ちはだかっている。それを気にする人は賃金が上がってもあまり喜ばない。スーパーマーケットは正社員よりパートが圧倒的に多く、正社員の賃上げより、パートが少しでも上がると経営に大きな影響を与える。我々がパートの賃上げを要求しても収入の壁があるために非常に難しい」と、吐露する。

スーパーのレジで働くスタッフ
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つまり、第3号被保険者の就業調整が、結果的に正社員と非正規社員の賃金格差を温存している。

29日、政府が「年収の壁対策」として、社会保険料の負担で手取り収入が減らないように企業経由で1人最大50万円の助成を検討していることが報じられた。

しかし、この政策はその場しのぎの弥縫びほう策でしかない。根本的に解決するには第3号被保険者制度を見直すしかない。

女性のライフスタイルの違いによる年金の負担と受給の不公平、正規と非正規の格差の温存という弊害をもたらしている第3号被保険者の廃止に連合が乗り出したことは大いに歓迎したい。会社員を多く組織する連合が動き出したことで、今度こそ廃止になるのか、その行方を注目したい。

溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。