「人新世」について学ぶなら『天気の子』の小説版を

さっさとそこに飛び込んで、その迷宮を彷徨さまよい、うろつく体験を味わいたい。それでいいじゃないかという意見もあるでしょう。それもひとつの方法です。しかしわたしが提案したいのは、「急がば回れ」を採用し、飛び込む前に、迷宮の輪郭を眺めてみることです。

たとえば「中国思想史」を勉強したいと思ったとき、自分がこれまで読んできたもののなかでそれらしきことが書かれていたものが何だったのかを棚卸ししてみましょう。横山光輝の『三国志』や、原泰久『キングダム』、星野之宣『海帝』などのマンガ、小説なら近年ベストセラーになった劉慈欣『三体』シリーズ、あるいは日本でも古くから古典として読まれてきた孔子『論語』などの中国の古典やそれらの解説書でも構いません。

「人新世」を勉強したいと思っているならば、この言葉が作中に登場して一部で話題になった映画『天気の子』、あるいは、もし読んだことがあればいわゆるSDGS関連のビジネス書でもいいでしょう。「人新世」は地質学的な概念なので、地震や地球科学に関する本を読み返してもいいでしょう。そしてSDGsや「人新世」というキーワードが取りざたされる前から似たような議論を展開していたエコロジーや自然破壊、環境問題についての本を読んだことがあれば、あらかじめ読み直しておいてもいいはずです。

立ち読み
写真=iStock.com/Satoshi-K
※写真はイメージです

「急がば回れ」の精神で新しいことが理解しやすくなる

回り道をすることで、時間稼ぎをし、その時間で自分のなかの知見を棚卸しすることができる。この棚卸しは、目先の目標である「新しいジャンル」を理解するということを効率化するための方策です。

ひとは、いちどにたくさんの目的を持って行動することができません。何かに集中すればするほど、ひとつかふたつの目標をめざすので精一杯になります。なので、新しいジャンルに取り掛かり、その理解を最短に効率化するためにあえて遠回りとして自分の読書遍歴を棚卸しする、という行為はだいぶストレスフルな行動になるでしょう。

そもそも面倒で億劫な再読を、ストレスフルな状態で実行するのはいっそうしんどく感じられるでしょう。なので、以下にわたしが書くことは、実際に再読をするときには忘れてしまったほうがいいかもしれません。実際の再読をするときには、あくまで「新しいジャンルに取り掛かる前の棚卸し」として再読をしましょう。