リストラは「夫がいる女性」「ある年齢以上の未婚女性」の順で…

働く女性にとって、厳しい現実があったことは、他の訴訟からも見てとれます。たとえば、日特金属工業事件では、「整理解雇時は、有夫の女性、ついで、ある年齢以上の女性を優先」することになっていた……。

これは、会社の業績が苦しくなったときに、どの順番で解雇をするか、という取り決めについて書かれたものです。まず、正社員を守るために、非正規社員を解雇する。その次は、結婚している女性正社員。これでもう十分に差別的な扱いなのですが、それでもまだ、「旦那さんがいるから、生活には困らない可能性が高い」からそう決めたのか、とその理由は推測できます。ただ、その次に解雇すべき対象が、「ある年齢を超えた未婚の女性」。こうなると、もうまったく合理的な理由が見つけられないでしょう。そこには、「ある年齢を過ぎた女性は働くべからず」という当時の風潮くらいしか、根拠となるものが想定できません。

そう、そんな社会だったのです。

当時、30歳を過ぎて働いている女性は、ビジネス街にはほとんどいなかった(図表1)。そのことをあなたは今、なかなか想像できないでしょう。

【図表1】従業員1000名以上の企業での女性従業者数(1985年)

それと同じ。そんな時代に生まれ育った人たちが、今のあなたの心境を理解することはやはり難しいのです。

<引用ここまで>

女性は「学歴・役職・給与で男性より下」という価値観

以上、2012年に上梓した拙著『女子のキャリア』から、昭和の風景を表す箇所を引用いたしました。驚きませんか?

社会全体が足並みそろえて「お嫁さんになること」を若き女性に押し付けているさま。現代に生きる女性はもちろん、男性からしても、昭和はこんなだったのかと思うと、胸が痛むのではありませんか。

そして、そのお嫁さん願望に合わせる形で、産業界を定向進化させてしまいます。

職場に女性の居場所は、「男のアシスタント」しかありえず、それも結婚するまでのひと時の「腰掛け」であり、企業は彼女らを「預かりもの」と呼んでいた。それでも独身時代は、はれ物に触るような「理解なき支援」を多々受けて、一見、優しくされているようにも見えるが、いたるところで、企業は彼女らに牙をむきます。

そもそも、定年は女性だけが途方もなく早い。夫がいる女性は食い扶持に困らないからと、さっさと整理解雇することが社則に盛り込まれている。果ては、未婚でも若年期を過ぎた女性は先んじて整理解雇対象となり、訴訟でもそれが間違っていないと判断される……。

そして、人倫を教えるべき教育界まで、「四大行ったら就職ないよ」と脅し、短大卒→事務職員への道を半ば強制する……。

こうして、女性には、学歴・役職・給与で「男より下」という価値観が、染みついていくのです。この昭和型の価値観が、2000年代になって、女性たちの反乱を起こすことになる。反乱がどのように起きたかは、しばらく後の方で説明しますが、今の少子化の背景にこうした昭和型価値観の悪戯という図式が存在することをは知っておいてほしいと思います。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
雇用ジャーナリスト

1964年生まれ。大手メーカーを経て、リクルート人材センター(現リクルートエージェント)入社。広告制作、新規事業企画、人事制度設計などに携わった後、リクルートワークス研究所へ出向、「Works」編集長に。専門は、人材マネジメント、経営マネジメント論など。2008年に、HRコンサルティング会社、ニッチモを立ち上げ、 代表取締役に就任。リクルートエージェント社フェローとして、同社発行の人事・経営誌「HRmics」の編集長を務める。週刊「モーニング」(講談社)に連載され、ドラマ化もされた(テレビ朝日系)漫画、『エンゼルバンク』の“カリスマ転職代理人、海老沢康生”のモデル。著書に『雇用の常識「本当に見えるウソ」』、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(ともにプレジデント社)、『学歴の耐えられない軽さ』『課長になったらクビにはならない』(ともに朝日新聞出版)、『「若者はかわいそう」論のウソ』(扶桑社新書)などがある。