託児所のスタッフ募集の増加も参考になる

また、これらはいささかマニアックな話ですが、トラックの運転手の需要が高まると、それだけ物流が活発であることの証拠ですから、景気は拡大局面に向かうと判断できますし、チャイルドケアサービスといって、託児所のスタッフ募集が増えると、やはり景気が拡大しつつあると判断できます。

片働きの家庭であれば、チャイルドケアサービスの利用ニーズは基本的にありませんが、共働き家庭だと、この手のサービスは必須です。チャイルドケアサービスのスタッフ募集増加は、共働きができるほど人を雇う意欲が企業側にあることを意味しますから、景気が拡大局面にあると考えられるのです。

事前予想との乖離でマーケットへのインパクトは変わる

雇用統計の数字がマーケットに及ぼすインパクトは、ひとえに「事前予想」の数字と実際の数字との乖離かいりがどのくらいなのかによって、変わってきます。

事前予想に対して大幅なプラス乖離が生じた場合は、株式市場にとって「ポジティブ・サプライズ」になるため、株価は大幅に上昇します。

エミン・ユルマズ『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)
エミン・ユルマズ『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)

たとえば平時のとき、非農業者部門雇用者数の事前予想が前月比20万人増だとして、実際の数字が50万人増だったら、事前予想を大幅に上回ったことになりますから、これはポジティブ・サプライズです。株価は大きく上昇するでしょう。

逆に、事前予想が同じでも、実際の数字が10万人増だったら、これは明らかにネガティブ・サプライズと受け止められて、株価は大きく下げます。

とはいえ、景気が非常に過熱しているときに、非農業者部門雇用者数の実際の数字が大幅増になったりすると、近々、FRBがインフレを抑制するために金融の引き締め政策をとってくる可能性が高い、という連想が働き、逆に金利上昇を嫌気して株価が下げるケースもあるので、ケース・バイ・ケースの面があるのも事実です。これは、米国市場の2022年後半以降に見られた現象です。

エミン・ユルマズ(Emin Yurumazu)
エコノミスト

トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年から2024年まで複眼経済塾の取締役・塾頭を務めた。2024年にレディーバードキャピタルを設立。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。