役職定年はまたとないチャンス
それまでとは発想を変え、出世するためではなく自分の専門性を磨くために今の仕事を頑張るというのは、とても重要なことです。しかし、多くの人は、なかなかそうは考えません。
50代も半ばになると、それまで管理職だった人は「役職定年」でラインの長を外れるケースが出てきます。すると、途端に気力を失ってしまうというのもよくある光景です。6年ほど前にNHKで放送されたドラマ『定年女子』には、役職定年を迎えた女性主人公が落ち込む様子が描かれていました。あそこまで極端ではないにしても、内心は落ち込んでやる気を失ってしまう人が、あなたの周りにもいるのではないでしょうか。
しかしながら、役職定年というのは、実はまたとないチャンスなのです。理由は2つあります。
1つ目は、前述のように、そこからは自分の専門性を見いだし、それに注力することができるようになることです。
管理職というのは、自分自身の仕事よりも部下への指示や相談事への対応、トラブルの解決、そして人事上の問題といった組織運営上の仕事が中心です。必然的に専門性とはほど遠い状態で仕事をこなさざるを得ません。
ところが、役職を外れて一兵卒になれば、会社で仕事に取り組む時間は全て“自分の仕事”ができます。部下や上司の面倒を見る必要はなくなります。だからこそ、自分の専門性を磨けるチャンスと考えるべきなのです。
副業を始めて定年後は本業にする
2つ目は、ケースバイケースではありますが、兼業・副業が可能になることです。
働き方改革の一環として、厚生労働省は2018年に「モデル就業規則」の改正をおこない、兼業・副業が認められる方向に舵を切りました。ただ、実際にはまだまだ認められている企業は多くないのが現状です。経団連が2020年に調査した結果では、兼業・副業が認められている企業は22%に過ぎませんので、まだまだ少数派です。ただ、経団連に加盟しているような大企業以外では進みつつあるようで、マイナビが2020年におこなった調査では約半数の企業で副業が認められています。もし認められているのであれば、役職定年は副業を始めるには絶好の機会です。
副業のメリットはいくつかありますが、まず単純に収入源が多様化するということでしょう。特に昨今のようにコロナ禍で廃業したり、事業を縮小したりするところが増えてくると、サラリーマンだからといって安心することはできません。収入を安定させるためには共働きが大事ですが、副業も複数の収入源を持つという意味では重要です。
2つ目は、副業が「60歳以降を見据えた準備になる」ということです。ひょっとするとこちらの方がより重要かもしれません。
サラリーマンが副業をするのであれば、それは稼げるビジネスか、もしくは稼げなくても自分のやりたいことをするのが普通でしょう。だとすれば、焦らず、少しずつ副業を展開していきながら、定年後はそれを本業にすることを目指すというのもありだと思います。
このように、50代でもおおいに仕事は頑張るべきだと思います。それによって60歳以降、本当に楽しく仕事ができるようになるかどうかが決まってくるからです。
現在の仕事での専門性に磨きをかけるのもいいでしょうし、副業で新しい収入の方向を探るのもよしです。これまでのように「会社から命じられて仕事をする」ことから少し発想を変えてみるべきではないでしょうか。
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。