※本稿は、大江英樹『50歳からやってはいけないお金のこと』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。
50代になったら今の仕事を今まで以上に頑張るべし
私は、色んな企業の50代前半の方向けの研修で講師をする際、いつも参加者の人たちに「みなさん、早く成仏しましょう」と言っています。にもかかわらず、「50代で仕事を頑張るべし」と言うのは、少し言っていることに矛盾があるのではないかと思われるかもしれません。
たしかに、50歳になると、それまでとは違って働きづらくなることは事実でしょう。
その理由は、
①そもそも働き盛りは30~40代。50歳から頑張っても先が見えている
②役職定年があり、責任ある立場を離れることがある
③体力的にも若い時よりかなり衰える
といったところでしょう。これらは全てそのとおりです。
しかし、ここで発想を根本的に変える必要があります。
長く働こうということなら、再雇用では無理です。なぜなら、多くの場合は65歳までしか雇用されないからです。したがって、65歳以降も長く働こうとすると、定年後に他の企業へ移ったり、自分で事業を始めたりすることが必要です。そのために最も重要なことが、今の仕事を頑張ることなのです。
これは意外に思うかもしれませんが、事実です。
65歳以降も働くために必要なのは「専門性」
多くの人が仕事を頑張るのは、今の会社で昇格することを念頭に置いているはずです。だから、50代になって出世コースから外れてしまうと「頑張っても仕方ない」と思ってしまうのです。ところが、シニアの転職で最も重視されるのは「専門性」です。それが技術であれ、営業であれ、庶務業務であれ、どんな種類の仕事でも高い専門性を持っていることがとても重要です。
特に昨今は若い人が起業したスタートアップ企業やベンチャー企業も増えています。そういう企業は、自分たちの本業については優れたノウハウや技術、サービスを持っていたとしても、経理や営業や法務といった部分はまだそれほど強くありません。したがって、長年企業で働いて一つの業務に専門性を持っている人が、そうした新しい企業で必要とされる傾向が強いのです。私の知人でも、上場企業に勤めていて、定年後あるいは50代後半でそういう企業に請われて行った人が何人もいます。
ただし、そういう人には特徴があります。
それは、社内で出世することよりも自分の専門性に磨きをかけてきた、言わばある種の職人気質の人です。中小企業やベンチャー企業が求めるのは経営者ではなく、その分野に特化した技術や知識を持っている人だからです。
50代こそ、専門性に磨きをかけるとき
もちろん、多くのサラリーマンはスペシャリストではなくゼネラリストとしての仕事が求められてきました。今風の言葉で言えば、ジョブ型ではなくメンバーシップ型の職場で働いてきたからです。そんな中にあっては、自分で「この仕事のプロだ」と言い切れる人はなかなかいないでしょう。
でも50代に入ったら、そこからは社内でのキャリアパスが重視されて部門を超えた異動が増えるというケースはまずないと考えるべきです。だとすれば、50歳からは自分の仕事の専門性に磨きをかけていけばいいのです。
戦力外通告がチャンスになった
私は50歳手前までは営業の仕事をずっとやってきました。証券会社は営業が花形の仕事です。ところが50歳を前にして「年金部門」への異動を命じられ、その後は定年までずっと同じ部署でした。つまり、ある種の戦力外通告を受けて、社内ではあまり陽の当たらない部署へ異動になったのです。これは一般的にありがちなパターンのような気がします。
ところが、それまで全く経験のなかった「年金」に関する仕事をやってみると意外と面白く、結構夢中になっていきました。結果的には、証券会社としてはあまり経験することのない外部の人たちとの接触、具体的には同業の証券会社ではなく生保や信託といった異なるカルチャーの人たち、そして厚生労働省や企業年金連合会といったほとんど証券ビジネスとは縁のない分野の人たちと知り合うことができました。
もちろん年金部門に異動して以降は昇格も昇給もありませんし、ボーナスも減りましたが、その代わり、得難い経験をすることができたのです。
その時の経験と人脈が、定年退職後に仕事をするにあたって、非常に大きく役に立っています。それどころか、現役時代のツテで、定年になった時には複数の企業から「うちに来ないか」というお誘いを受けました。これは年金部門に異動し、そこでそれまで経験したことのない仕事に取り組むことで専門性を磨いた結果だろうと思っています。
もし戦力外通告を受けていなければ、今の立場はなかっただろうと思います。
役職定年はまたとないチャンス
それまでとは発想を変え、出世するためではなく自分の専門性を磨くために今の仕事を頑張るというのは、とても重要なことです。しかし、多くの人は、なかなかそうは考えません。
50代も半ばになると、それまで管理職だった人は「役職定年」でラインの長を外れるケースが出てきます。すると、途端に気力を失ってしまうというのもよくある光景です。6年ほど前にNHKで放送されたドラマ『定年女子』には、役職定年を迎えた女性主人公が落ち込む様子が描かれていました。あそこまで極端ではないにしても、内心は落ち込んでやる気を失ってしまう人が、あなたの周りにもいるのではないでしょうか。
しかしながら、役職定年というのは、実はまたとないチャンスなのです。理由は2つあります。
1つ目は、前述のように、そこからは自分の専門性を見いだし、それに注力することができるようになることです。
管理職というのは、自分自身の仕事よりも部下への指示や相談事への対応、トラブルの解決、そして人事上の問題といった組織運営上の仕事が中心です。必然的に専門性とはほど遠い状態で仕事をこなさざるを得ません。
ところが、役職を外れて一兵卒になれば、会社で仕事に取り組む時間は全て“自分の仕事”ができます。部下や上司の面倒を見る必要はなくなります。だからこそ、自分の専門性を磨けるチャンスと考えるべきなのです。
副業を始めて定年後は本業にする
2つ目は、ケースバイケースではありますが、兼業・副業が可能になることです。
働き方改革の一環として、厚生労働省は2018年に「モデル就業規則」の改正をおこない、兼業・副業が認められる方向に舵を切りました。ただ、実際にはまだまだ認められている企業は多くないのが現状です。経団連が2020年に調査した結果では、兼業・副業が認められている企業は22%に過ぎませんので、まだまだ少数派です。ただ、経団連に加盟しているような大企業以外では進みつつあるようで、マイナビが2020年におこなった調査では約半数の企業で副業が認められています。もし認められているのであれば、役職定年は副業を始めるには絶好の機会です。
副業のメリットはいくつかありますが、まず単純に収入源が多様化するということでしょう。特に昨今のようにコロナ禍で廃業したり、事業を縮小したりするところが増えてくると、サラリーマンだからといって安心することはできません。収入を安定させるためには共働きが大事ですが、副業も複数の収入源を持つという意味では重要です。
2つ目は、副業が「60歳以降を見据えた準備になる」ということです。ひょっとするとこちらの方がより重要かもしれません。
サラリーマンが副業をするのであれば、それは稼げるビジネスか、もしくは稼げなくても自分のやりたいことをするのが普通でしょう。だとすれば、焦らず、少しずつ副業を展開していきながら、定年後はそれを本業にすることを目指すというのもありだと思います。
このように、50代でもおおいに仕事は頑張るべきだと思います。それによって60歳以降、本当に楽しく仕事ができるようになるかどうかが決まってくるからです。
現在の仕事での専門性に磨きをかけるのもいいでしょうし、副業で新しい収入の方向を探るのもよしです。これまでのように「会社から命じられて仕事をする」ことから少し発想を変えてみるべきではないでしょうか。