「のび太式」の丸投げでは成長しない

実際に試してみると「60%は使える」「80%は任せられる」と、タスクによって信頼度が変わることがわかってきます。指示の出し方のコツもわかってきますし、どこまでChatGPTにやらせて、どこから自分で考えるのが一番効率がよいかもわかってくるでしょう。自分が得意なところ、苦にならないところは自分でやり、苦になる作業や不得手な作業で手伝ってもらうことを考えます。

こうしてChatGPTを使っていると、自分の「質問力」や「お願い力」「指示力」も上がります。部下やアルバイトに指示したり、外注するのがうまくなるでしょう。

ただ、のび太が、困ったことがあると何でも「ドラえもーん! 何とかして!」と泣き付くような使い方は、あまりお勧めできません。例えば、「飲料会社の商品開発部門で働いています。いい企画を出してください」など、ざっくりした指示で「丸投げ」をして、楽をしようとするだけの使い方です。

こうした指示でもChatGPTは文句も言わず、なにかアイデアを出してくると思います。でも、せっかくならもっと、自分の能力を磨くための使い方をする方がいい。

「深津式プロンプト・システム」を実際使ってみるとわかると思いますが、いい企画を出すためには、適切な制約条件を練る必要があります。「こんな条件がいいだろうか」「それともこっちか」と試行錯誤すること、出てきた企画のどれが「いい企画か」を選択して決めること。そこで自分の力が試され、鍛えられるはずです。1回指示をして出てきたものをそのまま受け取って満足するのではなく、ChatGPTと何度もキャッチボールをして、アウトプットをブラッシュアップする過程を楽しんでください。

自分の成長につながるChatGPT活用法

ChatGPTを、コーチやメンター、パーソナルトレーナーのように使うのもお勧めです。文章が苦手な人は、「命令書」で、ChatGPTにプロのライターの役割を与えて、自分が書いた文章を評価させる。社長や事業部長の役割を与えて、自分が書いた企画をレビューさせ、あいまいなところや足りない要素はないか確認する。これを繰り返すと、「この内容だと上司からこんなツッコミを受けるだろうな」と予測できるようになり、自分の成長につながるはずです。

自分が上司なら、評価基準や判断基準をChatGPTに伝え、自分の代わりに部下から上がってきた書類のスクリーニングをさせるという使い方もできそうです。「自分はこんな基準で判断するから、自分が書いた書類はまず、ChatGPTを使ってレビューするように。そこをクリアしたものだけ提出するように」としてもいい。すると、チーム全体のクオリティーが上がるのではないかと思います。

使わないことがいちばんのリスク

ChatGPTは、突然話題になって一気に誰もが知るツールになりましたが、「活用イメージがわかないから使っていない」という人が多いように思います。なんとなく難しそう、不安、というイメージもあるようで、食わず嫌いの人も多い。

私も、「使わなくても大丈夫ですよね?」と聞かれることがありますが、その問いはまさに、2007年にiPhoneが発売された時に発せられた「iPhone/スマホを使わなくても大丈夫ですよね?」と同じです。

もちろん使わなくても恐ろしいことが起こるわけではありません。でも、これから何年か経って、2023年を振り返り、「あのときに触れておけばよかった」と後悔するようになるのではないかと思います。2007年の当時、10年後、15年後の社会がこれほどスマホ中心で回るようになるとは、誰も予想していなかったと思います。先に触れていたというだけで、とりかえしのつかないほどの差がつく可能性がある。既存企業の勢力図も構造もすべて変わるかもしれない。それほどAIの可能性は大きいと見ています。

今後、AIが具体的にどのように生活に入り込んでくるかはまだわかりません。でも、ドラえもんや鉄腕アトムが実現するためのスタート地点に立っているのは確かです。自動車に「車庫入れしといて」と話しかけたら、自動で車庫に入ってくれるような世界も遠くないでしょう。

今のChatGPTは、「すごく優秀だけど、うろ覚えで全部答えさせられている」といった状態です。でもこの天才に検索エンジンや高性能の計算機を渡せば、もっと優秀になり、情報の精度も上がるでしょう。いずれ画像や音声と統合されて、さらに便利になるはずです。

間違った使い方をすることよりも、使わないでいることが一番もったいない。今、触らないでいるのが一番のリスクなのは確かです。

構成=池田純子

深津 貴之(ふかつ・たかゆき)
note CXO、THE GUILD CEO、インタラクション・デザイナー

1979年生まれ。武蔵工業大学(現・東京都市大学)卒業後、2年間のイギリス留学でプロダクトデザインを学んだあと、株式会社thaを経て、Flashコミュニティで活躍。独立以降は活動の中心をスマートフォンアプリのUI設計に移し、クリエイティブユニットTHE GUILDを設立。メディアプラットフォームnoteのCXOとしてnote.comのサービス設計を担当。著書に『先読み!IT×ビジネス講座 画像生成AI』(共著)、『Generative Design-Processingで切り拓く、デザインの新たな地平』(監修)、『UI GRAPHICS ―世界の成功事例から学ぶ、スマホ以降のインターフェイスデザイン』(共著)など。