インフレ率と賃金の上昇率は並行して上がる

インフレなくして、給料は上がらない。

総理が企業に賃上げを要請するに及び、私は天を仰いだ。

財政政策によりインフレの状況を作れば、給料は上げられるのだ。

利上げや増税という正反対の政策を、財務官僚に言われるがままに始めておいて「賃上げを」など矛盾もいいところ、笑止千万である。

インフレ率が2%に近づいていくと、賃金の上昇率は3%に近づいていく。過去の例を見ると、少し時期がずれることはあるが、基本的には2つが並行して上がっていく。

そして、インフレ率より、賃金の上昇率の方が少し高い。これは普通のことだ。

ところが、両者をリンクさせて考えない人があまりに多い。

さらにおかしなことに、「インフレ率2%を達成していないじゃないか!」と怒っていたマスコミが、「物価が上がりすぎている!」と、やっぱり怒るのである。

一体どうしたいのだろう? あまりにちぐはぐなのだが、その滑稽さに自分ではまったく気づいていない。

こういう情報が、「権威ある経済紙」に堂々と載っている。テレビでも流れてくる。それを見ているだけでは、「経済なんて分からない」と思うのは当然だろう。正しい情報に触れた人だけが、状況をしっかり見極められるのだ。

なぜ日本だけ賃金が上がらないのか

日本はここ20年近く、賃金が上がっていない。

逆に世界の国々では、だいたい10年くらいで賃金は2倍近くに上がっている。

他国は上がっているのに、日本だけ上がらない(図表1)。

一体なぜなのだろうか?

【図表】OECD加盟国の平均賃金の推移 
髙橋洋一『増税とインフレの真実』(秀和システム)より

この点について正確に理解するには、やはりGDPについて正しく押さえておく必要がある。

ご存知のように、GDPとは国内で生産されたモノやサービスの付加価値を表す国内総生産のことだ。

「名目GDP」は、その生産数量に市場価格をかけて生産されたものの価値を算出し、すべて合計することで求める。

一方、ここから物価の変動による影響を取り除いたものを「実質GDP」という。