「うつ病にセロトニンのサプリ」は根拠なし

脳科学を根拠にした食事療法も数多くマスコミで取り扱われている。だがその多くが、根拠のない妄説である。クスリを批判するマスコミもサプリに対しては不思議と無批判である。たとえば、うつ病からの回復がみられると、神経伝達物質セロトニン関連のサプリの摂取を勧める業者は数多い。これにも根拠はない。それにもかかわらず、少しでも病気が改善するならばと、ワラにもすがろうとする患者や家族は、高額のサプリを買い求める。

今や「健康」は、巨大なビジネス市場となっている。健康食品はクスリと異なり科学的な根拠が不要なため、新規参入は容易だ。キノコでもこんにゃくでもビタミンでも、ほとんど有効成分のないサプリメントでも、科学者風の人物かタレントを連れてきて宣伝すればいい。

サプリメントやハーブ
写真=iStock.com/sasirin pamai
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似非科学が引き起こす悲劇

欧米においてもわが国においても、人々の健康志向は高まるばかりである。このため医療費に加えて、代替医療にかける費用は高騰している。テレビではほとんどのチャンネルで、栄養セラピストたちが脳や身体に「良い」食品を自信たっぷりに推奨し、健康食品やサプリの購入をあおっている。

岩波明『精神医療の現実』(KADOKAWA)
岩波明『精神医療の現実』(KADOKAWA)

こうした似非科学の裏側では、救いようのない悲劇も起きている。1998年にイギリスで予防接種が自閉症を引き起こすという論文が発表された。これはまったく根拠のない説だったが、その結果予防接種の接種率が著しく低下し、かえって小児の感染症がまん延した。最近でも抗うつ薬の副作用が過大に宣伝された結果、逆にうつ病の薬物治療が十分に行われず、自殺率が高まったという報告がある。健康を人質に商売に励む企業はもちろん、それをあおるマスコミや似非科学者たちを注視する必要がある。

ただ難しい点は、こういった話題においては、エビデンスに基づいて議論をする科学者、医学者よりも、印象や思いつきで論じ、感情に訴えるナチュラリストやジャーナリストの方が、一般の人の共感を得やすい点にある。日常臨床においても、通常の向精神薬には過剰に反応する一方で、漢方薬はウェルカムという人を時々みかける。漢方薬といっても、いくつかの化学的な成分を集めたものであり、副作用も一般的な薬物と同様にみられ、死亡例もあることを説明しても、製薬会社の回し者に見えるようである。

岩波 明(いわなみ・あきら)
精神科医、昭和大学附属烏山病院院長

1959(昭和34)年、神奈川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。医学博士。発達障害の臨床、精神疾患の認知機能の研究などに従事。都立松沢病院、東大病院精神科などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授、2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼務。著書に『発達障害』(文春新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書)、『誤解だらけの発達障害』(宝島社新書)など多数。