プレスリリースを出さなかった

――中澤さんはプロモーションや媒体へのアプローチを担当して、ご苦労された点とか、ここがポイントだったなということはありますか。

「レースボクサー」は素材、設計、縫製を何度も練り直して誕生した。
「レースボクサー」は素材、設計、縫製を何度も練り直して誕生した。(写真提供=ワコール)

【中澤】普通は新商品が出ると、広く一般向けにプレスリリースを発信するのが広報の役割ですが、今回はあえてそれをしませんでした。「男性の下着が多様化している」というニューストピックをつくり、経済誌や新聞の社会部など報道色の強いメディアの方に取材をお願いしました。

その後はあえて180度転換して、女性週刊誌やWebニュースに取り上げられやすいメディアの記者の方にアプローチしました。ただし、ここで細心の注意を払いました。やはりメディアの性格上、どうしてもキャッチーなタイトルになったりするので、そこは記者の方ときちんと意思疎通をして、双方の意図に齟齬そごがないことを確認して記事を書いていただきました。

それがきっかけで、世界に向けて英文記事も配信されたんですよ。どの記事もおちゃらけた感じにはならずに「美しいね」「クールジャパンだ」とまじめに報道してもらえたのです。

美しいだけではダメ

――男性用下着をレース生地でつくることに対して、社内で反対意見はありませんでしたか。

【溝口】普通の会社だったら異論が出るかもしれません。でも当社では誰もがレースに携わっているので、否定的な意見は出ませんでした。

――男性と女性の差がなくなってきて、ジェンダーレスな世の中になりつつありますが、そんな中でも、「女性と男性では美意識が違う」と感じられることはありますか。

【中澤】そうですね。男性はやはり美しいだけではダメで、スペックが大事ですね。

下着に関しても、女性は繊細なレースを使ったインポートの下着を大事に手洗いするのは苦にならない。いわば「いとおしい、きれいさ」なんですよね。でも男性の美意識は大きく違っていて、「きれいだけど取り扱いが楽」だとか、「きれいだけどはき心地も良い」ことを求める。その点、レースボクサーはオールメッシュなので通気性も良いですし、裾の部分もゴムなどを使わず切りっぱなしになっているので、細身のアウターをはいたときでも下着の線が浮かびにくい。こんなふうに高スペックなうえに見た目もきれい、というところを強調して、体験したい、はいてみたいという心理を突くようにしました。

【溝口】特に男性は、事前にスペックを調べてから買いにいくことが多いと感じています。ワコールメンでは素材、設計、縫製、検証というプロセスを大事にしていて、「なんでその設計なの?」と聞かれたとき、特に男性を相手にするときは、そこをちゃんと説明できるようにしておかないといけないよ、といつもメンバーに言っています。