各種両立支援制度やキャリアチャレンジ制度は充実していても、実際に使えば、周囲から浮いてしまったり、思うようにキャリアアップができなくなる状況が浮き彫りになった。
Q1とQ2でトップだった金融・保険に関しては、両立支援制度の利用については上司も同僚も協力的であるが(Q7)、キャリアアップには商社に次いで悪影響が出るという結果が出た。育休や時短はとりやすいし、周りも気遣って優しくしてくれる。けれど、その後は多くの人がマミートラックで緩く働く、という流れが常態化しているのではないか。
Q7とQ8で、男女の意識差が目立った背景にも、このように対外的な“見かけ”の多様性だけを重視している傾向があるのだろう。
「多様性は認めるが、いざ社員が『多様な働き方』をしようとすると、まだまだ認められない」(白河さん)現実がありそうだ。
男性は年代が上がるほどに昇進意欲が低下
女性管理職が増えない理由について、世間一般には「女性は昇進したがらない」というイメージがある。だが、今回の調査で今後のキャリアについての考えを尋ねると(Q9)、「すぐにでも昇進したい」「機会を与えられれば昇進したい」「能力やスキルを身につけたら昇進したい」の3つの回答の合計割合は男女でそれほど変わらず、昇進意欲にそこまで男女差はないという結果が出た。
しかし、年代別に分解してみると、異なる傾向が見えてくる。男性は、年代が上がるごとに昇進意欲が低下していくのに対し、女性は50代で「すぐにでも昇進したい」と回答した割合が最も高かったことだ。
これまでの男性中心だった労働市場において50代で例えば非管理職ならばすでに出世コースを外れており、これ以上の昇進は望めない年代という固定観念が強い。すでに勝負は決まっており、あとは残りの会社員生活をいかに平穏に過ごすか、というマインドにシフトしている男性が主流だと思われる。
この結果について白河さんは「50代男性は周囲の同僚を見渡して、出世したらしたで別の苦労があるということが身に染みてわかっているという事情もあると思います」と補足。「対して、50代女性で出産が早かった方はお子さんが高校生にもなると、仕事にまい進できる世代なので、昇進意欲が上がるのでしょう」
一方、30代では、男性は「すぐにでも昇進したい」割合が23.2%なのに対し、女性は9.5%と低い。これらの結果から、「ライフイベントの影響を調整できれば女性にも十分昇進意欲はある」と白河さんは分析。
実は、労働問題の調査・研究を行っている労働政策研究・研修機構の研究においても、50代女性は同年代の男性よりもキャリアアップに対する意欲が高いことが示唆された調査結果がある(労働政策研究・研修機構2010「成人キャリア発達に関する調査研究─50代就業者が振り返るキャリア形成─」労働政策研究報告書No.114)。
「ある保険会社が、女性管理職登用候補者育成・支援制度を設けたところ、応募する50代女性社員が殺到したといいます。D&Iがうたう多様性は、性別だけでなくもちろん年齢も含まれます。これまでは年を取ったら徐々にサポート業務に回るのが主流でしたが、今後の労働人口減少時代への対策としても、業務内容と年齢を結び付けないほうが企業の人材プールにも寄与するでしょう」(白河さん)
【調査概要】「プレジデント ウーマン」で独自にオンラインアンケートを実施(実施期間:2022年7月13~15日)。有効回答者数:20~59歳の男女800人(うち管理職400人、一般社員400人)
相模女子大学大学院特任教授・女性活躍ジャーナリスト
1961年生まれ。「働き方改革実現会議」など政府の政策決定に参画。婚活、妊活の提唱者。『働かないおじさんが御社をダメにする』(PHP研究所)など著書多数。
イラスト=浜畠かのう