D&Iの浸透を阻むのは変化を恐れる「粘土層」
では、会社の仕事現場における、D&Iの浸透具合はどうだろう。
「D&Iについて否定的な言動を行う社員がおり、現場の士気を下げている?」(Q5)、「批判的な態度で応じたり、理不尽な対応を要求されることがある?」(Q6)という設問で、経営トップのマインドや制度の充実面では先進的だったはずの商社と自動車・機械が、上位にランクインした。Q6は、D&Iにおいて不可欠な要素である「心理的安全性」が確保できているかどうかを測る設問で、ここで上位に入るということは、D&Iを妨げる強い風土が現場に存在するということだ。
つまり、業界によっては、経営層の打ち出しているD&Iの推進メッセージと、現場で行われていることが乖離しているということになる。
このような本音と建前がまったく違う業界の背景として、白河さんは「トップの意識や環境の整備も大切ですが、D&Iの基盤となるのはやはり企業風土。これらの業界における上場企業は、概して歴史が長く社員の平均年齢が40~45歳以上。加えて中途採用も少なく新しい価値観が現場に入ってきていないことも特徴です」と指摘する。
生え抜きの40~45歳以上の男性が多い企業には、経営層がD&Iのような新しい施策をやろうとすると、自分の既得権益が失われるために現場で激しく抵抗する層がまだまだいるのだという。
「この抵抗層は、『粘土層』と呼ばれています。粘土は水を通しにくい性質を持ち、上(トップ)からいくら水を注いでも下の地層(現場)に浸透しない様を例えたものですが、このアンケートによって、本音と建前が違う業界における粘土層の存在が可視化されたといえるでしょう」(白河さん)
商社は「言うこととやっていること」が違う
とくに商社は、「両立支援制度(育児、介護)の利用者」に対しても厳しい結果が出た。Q7の「周囲の上司や同僚は協力的?」で下から4番目で、Q8の「両立支援制度を利用することは、キャリアアップの妨げになる?」では何とトップ。