「特にSDGs、DXなどに深い知見を持つ女性を求めるケースが増えました。さらには社外取として関わる企業で、SDGsのどの項目を達成するべきか、どんなDXができるかをイメージできる高い視座もあるといいでしょう。これらは、今後ビジネスパーソンとして勉強しておいて損はありません。また、財務が専門ではなくとも、財務諸表が表す数字をちゃんと理解できる能力も必要です」
専門的な能力同様に注目される“人”としての魅力
社外取の場合、本業と利益が相反する会社には就任できない。たとえば化粧品会社に勤務していたら、化粧品関連の会社はNGである。また、兼任する場合も分野はすべてバラバラになるので、それぞれの業界の勉強が必須。本業以外に社外取を3社兼任するとなると、月に3回の取締役会が開催されるので、そのたびに各会社について勉強しなくてはならない。そんな多忙な状態を乗り越えられるタフな心身の持ち主であることもマストだ。同様にとても重要なのが、他者とのコミュニケーション力だと、渡辺さんは断言する。
「専門分野での卓越した能力はもちろんですが、人間的な魅力も求められますね。取締役会以外に懇親会なども開催されるので、かなりの頻度で他の取締役と顔を合わせることになります。だから『また会いたい』と思われるような人柄であることが望まれます。具体的には、適切な意見を適切なタイミングで言える、出しゃばらず控えめすぎず、なおかつ会話のスキルが巧みな人。知識が豊富で、さらに自分だけの得意分野を持っていれば鬼に金棒です。最近はロシアによるウクライナ侵攻の影響もあって、地政学やサプライチェーンなどに詳しいと評価も高くなりそうです」
このように就任するにはかなり難易度が高い女性の社外取。果たして自分がなりたいと思ってなれるものなのだろうか?
「公募しているわけではないので、自分から手を挙げたとしてもなれるものではありません。社外取を探している会社の人事部が人材エージェントにリクエストを出したり、経済同友会や経営者仲間に適任の女性がいないかたずねてみたりと、クローズドな状態で選考が進みます。また『女性リレー』という習慣があって、社外取を辞めた女性が、知り合いの有能な女性に声をかけるというケースもあるそうです」
あと数年もすると今より女性エグゼクティブが増えてくるので、さらに狭き門になるとのこと。自分で希望してなれるものではないが、それをめざして仕事と勉強に励み、新しい情報をキャッチアップし、人間性を磨いておくことをオススメする。なぜなら社外取ではなくても他社からヘッドハンティングのオファーが来るかもしれないからだ。何よりも自分の人生が豊かになるのだ。
ハイドリック&ストラグルズ パートナー
大学卒業後、豊田通商、縄文アソシエイツを経て、ハイドリック&ストラグルズジャパン東京オフィスのパートナーに就任。経営トップ、エグゼクティブクラスのリクルーティングを行う。
ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。