最近注目を集めている女性社外取締役の存在。本業に加えて就任するケースが多いので、究極の副業と言えそう。敏腕ヘッドハンターの渡辺紀子さんに実情を聞いた。
まもなく私はこの街を走るだろう
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兼任=他流試合で経験値を上げ、スキルを磨く

会社法が改正され、2021年から上場会社では社外取締役(社外取)の設置が義務化された。従来は男性ばかりだった取締役陣に、ダイバーシティを背景に女性や外国人の登用が推進されている。最近では本業と並行して就任する女性が増えたが、どんなキャリアを持った人が選ばれるのか?

「弁護士などの士業や大学教授、会社員の場合は超巨大企業ならば部長職以上、それ以外の会社なら執行役員クラスから選ばれることが多いです。男性は60歳以上のシニア世代が多数を占めますが、女性はもう少し若い世代からも選ばれるので、本業を持っている方にも声がかかるのです。本人も所属する会社としても、“他流試合”で経験値を上げるのを歓迎しているという背景が登用の推進を後押ししています」

上場会社は「スキルマトリックス」といって、取締役などの経営陣の知識や経験を一覧にしてまとめ、それを開示するケースが増加。メインは企業経営、営業、マーケティング、財務・会計、法務、技術開発などであり、最近では、グローバル、SDGs、DX(デジタルトランスフォーメーション)、コンプライアンスなども追加される。スキルマトリックスがバランスよく構成されているのが企業の理想なので、不足しているスキルを社外取に求める傾向が強いのだ。

どんな人が取締役に選ばれる?

「特にSDGs、DXなどに深い知見を持つ女性を求めるケースが増えました。さらには社外取として関わる企業で、SDGsのどの項目を達成するべきか、どんなDXができるかをイメージできる高い視座もあるといいでしょう。これらは、今後ビジネスパーソンとして勉強しておいて損はありません。また、財務が専門ではなくとも、財務諸表が表す数字をちゃんと理解できる能力も必要です」

専門的な能力同様に注目される“人”としての魅力

社外取の場合、本業と利益が相反する会社には就任できない。たとえば化粧品会社に勤務していたら、化粧品関連の会社はNGである。また、兼任する場合も分野はすべてバラバラになるので、それぞれの業界の勉強が必須。本業以外に社外取を3社兼任するとなると、月に3回の取締役会が開催されるので、そのたびに各会社について勉強しなくてはならない。そんな多忙な状態を乗り越えられるタフな心身の持ち主であることもマストだ。同様にとても重要なのが、他者とのコミュニケーション力だと、渡辺さんは断言する。

どんなプロセスで選ばれる?

「専門分野での卓越した能力はもちろんですが、人間的な魅力も求められますね。取締役会以外に懇親会なども開催されるので、かなりの頻度で他の取締役と顔を合わせることになります。だから『また会いたい』と思われるような人柄であることが望まれます。具体的には、適切な意見を適切なタイミングで言える、出しゃばらず控えめすぎず、なおかつ会話のスキルが巧みな人。知識が豊富で、さらに自分だけの得意分野を持っていれば鬼に金棒です。最近はロシアによるウクライナ侵攻の影響もあって、地政学やサプライチェーンなどに詳しいと評価も高くなりそうです」

このように就任するにはかなり難易度が高い女性の社外取。果たして自分がなりたいと思ってなれるものなのだろうか?

「公募しているわけではないので、自分から手を挙げたとしてもなれるものではありません。社外取を探している会社の人事部が人材エージェントにリクエストを出したり、経済同友会や経営者仲間に適任の女性がいないかたずねてみたりと、クローズドな状態で選考が進みます。また『女性リレー』という習慣があって、社外取を辞めた女性が、知り合いの有能な女性に声をかけるというケースもあるそうです」

あと数年もすると今より女性エグゼクティブが増えてくるので、さらに狭き門になるとのこと。自分で希望してなれるものではないが、それをめざして仕事と勉強に励み、新しい情報をキャッチアップし、人間性を磨いておくことをオススメする。なぜなら社外取ではなくても他社からヘッドハンティングのオファーが来るかもしれないからだ。何よりも自分の人生が豊かになるのだ。

多い人は4、5社を兼任する場合も!
渡辺紀子さん
渡辺紀子(わたなべ・のりこ)
ハイドリック&ストラグルズ パートナー
大学卒業後、豊田通商、縄文アソシエイツを経て、ハイドリック&ストラグルズジャパン東京オフィスのパートナーに就任。経営トップ、エグゼクティブクラスのリクルーティングを行う。