働く場所がないなら、作ってしまおう

「箱があっても、何もしてあげられないんだって落ち込みました。本人、あれほど働きたい、働けると必死だったのに。私は生活保護を増やしたいわけではなく、自立して頑張る女性を応援したい。それが、この家でのコンセプトなのに……」

子どもが小学生ならいいが、就学前だと保育園になかなか入れないのも、ここで知った「壁」だった。「仕事が決まってないと、保育園には入れない。就職の面接に行けば、『お子さんの預け先は決まっていますか?』と聞かれる。同時になんか、できないよって」

「壁」にぶつかっても、押しつぶされないのが恵子さんだ。

「子どもがいても働けるところがないか探していたけど、そんなところはないし、じゃあ、自分で作っちゃおうって思って始めたのが、障がい者のグループホームでした。それが『ワンダフルライフ』です」

障がい者グループホームは身体、知的、精神、発達など障がい者に該当する18歳以上の人が、生活上必要な支援を受けながら、少人数で共同生活を送る住まいのことだ。

めぐみ不動産はひとり親、高齢者、障がい者、生活困窮者など賃貸物件を借りにくい人を支援する「居住支援事業」も行っているが、障がい者を受け入れる大家がほとんどいないという「壁」にもぶち当たっていた。

「だったら、グループホームでしっかり自立支援をして、この方だったら大丈夫と言える方を紹介すれば大家さんも安心だし、本人にとってもいいし、何かトラブルが起きたら、またうちのグループホームに戻ればいいし。そういう安心できる場所があれば、大家さんも安心して受けてくれるかなと思って、グループホームを立ち上げました」

事業はグループホーム、農業へ…正の相関生むマジック

現在、グループホーム「ワンダフルライフ」は8棟ある。オープン直前の物件を見せてもらったが、こちらもまた豪邸で、斬新な壁紙で明るくおしゃれな空間となっていた。

「社会福祉士も介護福祉士もいて、プロの指導のもとに一人ひとりに合わせた支援をしています。必ずしも、一人暮らしをするだけが自立ではないので」

このグループホームが、仕事を探しているシングルマザーたちの職場となる。調理、洗濯、掃除、食事の介助など仕事は多々ある。どうしても仕事が決まらなかった場合、まずここで働き、就労証明を得て保育園を申請し、保育園が決まったら、好きな仕事を探せばいいし、ここでずっと働き続けてもいい。

「壁」が生まれれば、そこから新しい試みの「種」がまかれるのも、“恵子さんマジック”だ。

「精神障がい者の後天的な発症起因って、食べ物の添加物とか保存料とか、農薬とかがすごく影響していると聞いて、『だったら、自分たちで無農薬野菜を作って、それをグループホームの人や、シングルマザーに食べさせたいね』となって」

今度は、畑だった。もともと畑作業が好きで無農薬野菜を育てていた恵子さんだったが、これを事業化。「めぐみ農園」として現在、伊勢原市に広大な農地を確保、無農薬野菜を栽培して店舗の前で販売しているのだが、この畑はシングルマザーも障がい者も働くことができる、新たな雇用の場ともなった。

店舗の前で販売している「めぐみ農園」で採れたての春雷とアレッタ
撮影=プレジデントオンライン編集部