念願の子ども食堂もオープン
そしてもうすぐ、「めぐみキッチン」というカフェが、伊勢原駅近くに誕生する。ここでようやく、恵子さんが初めて「社会貢献」という意識を抱いたきっかけとなった、子ども食堂をオープンさせるのだ。もちろん、「めぐみ農園」の無農薬野菜が主役だ。
「子ども食堂って月2回とか、週1回開催というのに違和感があって、常設の子ども食堂にします。月曜から土曜までは夕方5時から8時までカフェの営業をしながら、子ども食堂を開設します。タダで食べられるって良くないと思うので、子どもたちにも一部、ちょっとでもきちんとお金を払ってもらう。子どもの孤食を防いで、放課後の見守りの場所になれれば……」
「めぐみキッチン」が掲げるコンセプトは、「地域とかかわる、みんなの居場所」。
シェアハウスはある意味、狭いコミュニティーだ。しかし子ども食堂という地域開放型の居場所があれば、そこでいろいろな人との交流も生まれる。高齢者も障がい者も、そして地域のいろいろな人たちも。
「いろいろな子どもや大人が来て、いろいろな世代の方の居場所になってほしいです。『めぐみキッチンがあるから、伊勢原に住みたい』という声が聞けたら、私は多分、満足です」
「めぐみキッチン」は、障がい者の「B型就労支援」の場でもある。精神や知的に障がいがある人たちがホールを担当したり、グループホームでの食事作りを行ったり、サポートを受けながら働き、「工賃」を得る場となる。
“社会課題解決型不動産屋”
「“みんな働く”っていうのも、私の一つのキーワード。こうして、障がい者のB型就労支援をスタートさせます。ここでは障がい者の方も、シングルマザーの方も働けます」
シングルマザーのシェアハウスという、誰もが「何、それ?」と訝しむ場を作って7年。その時にまかれた一粒の種は今、社会的弱者を支える循環型システムとなって、伊勢原市に根付いている。それは地域に暮らす、さまざまな人をうまくゆるーく巻き込む“恵子さんマジック”のスパイスの効いた、おそらく他ではまだ見ぬ、地域社会のありようだ。
恵子さんが、お茶目に笑う。
「うちは、“社会課題解決型不動産屋”です」
いいなー。そんな不動産屋、絶対、うちの地域にも来てほしい。心から強く思った。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。