薬物依存の女性の多くは更生したいと願っている

これらの調査結果を受け、犯罪白書では、「特別調査の結果を見ると、女性は男性と比べ、薬物依存の重症度について、集中治療の対象の目安とされる『相当程度』以上の者の割合が高い」と指摘。また、自傷行為、自殺念慮といった精神医学的問題が顕著に見られ、DV被害の経験率が高いとした上で、「女性については、治療を受けるニーズが高い者が多いながらも、その介入は多角的かつ慎重に行われる必要性が高いことが示唆された」としている。

一方、女性は男性と比べて断薬努力経験や、民間支援団体の利用経験が高いことから、「薬物離脱の意欲が強い傾向が見られる」とも述べている。様々な特性や問題に配慮しながら、薬物離脱と断薬維持の動機付けを行う必要があり、その点では、札幌市にある女性刑務所「札幌刑務支所」で実施されている「女子依存症回復支援モデル事業」の試行の効果が注目されると述べている。

覚醒剤に手を染めた受刑者の中には、夜間働いている人が「眠れないから」と使用を始めたり、周囲に「ダイエットに効く」といわれて使い始めたりするケースも目立つ。

「『覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか』というのがありましたが、そんなふうに体も見た目もぼろぼろ、ではなく、ごく普通に見える人が周囲でやっているのを知り、それならと自分も気軽に始めてしまうことが多い」と調査専門官がいう。

妻や母としての役割に疲れクスリに走る女性も

既婚者や子育て中の女性の中には、妻や母親としての役割責任をこなすことに疲れ、クスリを使い始めるケースもある。また、女性の覚醒剤事犯は「男性絡みがほとんど」という特徴がある。男性から勧められて軽い気持ちで使っているうちに快感を覚え、やめられなくなったというケースが目立つ。

猪熊律子『塀の中のおばあさん』(角川新書)
猪熊律子『塀の中のおばあさん』(角川新書)

薬物をやめるには、専門家の手助けが必要となる。依存から回復した体験者の話も参考になる。

教育専門官は「自分の過去について考えるのをやめてしまう受刑者が多いが、それは危険。これまでの自分の行動を振り返り、それまでだったら避けてきた人との関わりを新たに始めてみることが、新しい生き方を見つけることにつながる。そうした関わりに寄り添ってくれる支援者と知り合うことが大切です」と強調する。

それまでと違う生き方を始めることに抵抗感をもつ受刑者も多いが、支援者や回復者とのつながりをもつことによって「安全な場所でどう生きていくか」を考え始めることが可能になるそうだ。

猪熊 律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社編集委員

1985年4月、読売新聞社入社。社会保障部長を経て2017年9月、編集委員に。専門は社会保障。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞社海外留学生としてアメリカに留学。スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム修了。早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。著書に『#社会保障、はじめました。』(SCICUS)、『社会保障のグランドデザイン』(中央法規出版)、共著に『ボクはやっと認知症のことがわかった』(KADOKAWA)など。