少子化対策を打つも出生率は低迷

1987年には、「子どもは3人が理想、経済的に余裕があれば4人以上」との政策を打ち出し、学歴などにかかわらず、結婚や出産を全面的に支援する方向へ転換。ゴー・チョクトン副首相は、3人以上出産した場合は、所得税の還元、広い間取りの公共住宅の優先割り当て、託児所の利用に対する補助金支給などの優遇を与える政策を開始した。

2001年には「結婚・育児支援パッケージ(Marriage and Parenthood Package)」という支援策を発表し、その後、幾度も拡充している。たとえば、2001年は2人目、3人目への補助金支給であったものが、2004年からは第一子を含め第四子まで、2015年からは第五子以降も含めた出産奨励金、産休の延長、ベビーボーナスと呼ばれるケアが必要な家族がいる世帯への家事労働者雇用税などの軽減措置が実施された(Chen et al. 2018※2)。

しかし、その後も出生率は1.2程度と低迷する。2018年のデータによれば、独身の割合は、30~34歳の男性で40.4%、女性で27.4%(1990年は男性で34%、女性で20.9%だった)と、未婚化およびそれに起因する少子化には歯止めがかかっていない。

赤ちゃんの手
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なぜ少子化が止まらないのか

シンガポールにおける少子化の原因や政策的効果については、豊富な研究蓄積がある。

量的研究では、年齢、民族、学歴などの変数を用いて出生率の規定要因を探る分析が数多くあり、とりわけ市民の多数派(約76%)を占める中華系で出生率が低いこと、また女性の高学歴化が未婚化・晩婚化をもたらしていること、結婚したカップルの中では結婚時年齢が高ければ子どもの数が減ることなどが指摘されている。

女性の高学歴化が未婚につながる理由としては、女性の高学歴化が進んできたにもかかわらず、上昇婚規範意識があることが一因として挙げられている。シンガポール国立大学(NUS)の調査(2013年)によれば、シンガポール女性は結婚相手に自分より身長が高いこと(67%)、年上であること(55%)、高収入であること(44%)、知的であること(35%)、高学歴であること(23%)を求める傾向が指摘されている。

また、晩産化や1世帯あたりの子ども数の減少の背景としては、若いカップルが結婚時に家を購入する際に費用負担が重いことや、住みたい物件の入居権利を得るのに時間がかかること、女性の高学歴化により男性からの経済的依存からの解放が進んでいること、キャリアに投資する考え方が浸透している反面で、女性にとって子どもを産むことの心理的・経済的コストが高いことなどが遠因として言及されている。

前述のNUS(2013)の調査では、「子どもは学業やキャリアの追求をさまたげる」に同意する割合も、男性35.1%に対し、女性は41.9%と、男女差が見られる。女性たちは、産休が長くなることにより解雇される可能性を懸念しているとの指摘もある。