人材起点の異動配置は、新入社員や昇進・昇格のような人事イベントがらみのものだけではありません。皆さんの関心が高い、能力開発目的の人事異動も人材起点です。キャリア形成のために計画的に次の経験を積んでもらおうというような異動は、いつ機会があるかわからない随時異動で行うことは難しいかもしれません。定期異動を軸に行うほうが確実です。
人事部が強い会社に多い「定期異動型」
定期異動は、ポジション起点の異動と人材起点の異動の両方を組み合わせて行われるものです。皆さんも「玉突き人事」という言葉を聞いたことがあると思います。玉突き人事とは、あるポジションにAさんを異動させて、AさんのポジションにBさんを異動させて、BさんのポジションにCさんを異動させて……という具合に、異動を連鎖させるやり方です。「トレイン人事」と呼ぶこともあります。
もしかすると玉突き人事には、AさんのためにBさん、Cさんも巻き添えになって本意ではない異動をさせられる、まさにビリヤードのように順繰りに押し出されてしまうというネガティブなイメージを持つ人が多いのかもしれません。しかし、部長になったA課長の後継者としてB係長を課長に、そしてB係長のポジションにCさんをという昇進の連鎖もまた、典型的な玉突き人事です。
現実の人事異動ではたいてい要員確保・要員適正化のポジションニーズが最優先です。純粋なキャリア開発・能力開発目的の異動は後回しになりがちですが、定期異動時の玉突き人事では、同時に大勢の人が異動するので育成要素を組み合わせる余地が大きくなります。昇進の連鎖のようなわかりやすいかたちでないとしても、仕事のステップアップの連鎖、能力開発機会の連鎖をどうやって作り出すか、これぞ異動配置担当者の腕の見せどころだと言えます。
大手企業の玉突き人事は、まるで巨大なパズルのように多くの要素が複雑に絡み合っています。毎年の人事異動案の策定に数カ月かかる企業も珍しくありません。余談ですが、あるAI企業は人事異動案をAIで策定するソフトウェアを開発していました。ちなみに、そのソフト開発には数学オリンピックの某国代表の方が参画していました。もちろん、AIで効率的に人事異動案を組めたとしても、すべてそのまま会社指示で実行できるというわけではなく、現実にはその後工程として数段階もの調整が必要だったりします。
定期異動型は、比較的人事部の人事権が強い会社に多いタイプで、能力開発要素を計画的に織り込みやすいやり方なのです。