変動金利を選ぶ人が取っているリスク
変動金利を利用している人が多いのは、固定金利に比べて金利が低いからでしょうが、今後、もし金利が大幅に上昇すると負担は大きくなります。これは大きなリスクです。なぜ変動金利が低いかというと、それは将来の金利上昇、それによる自分の負担の拡大というリスクを負っているからなのです。投資の大原則は「リスクを取らない限りリターンは得られない」ということですから、まさに変動金利を利用している人は積極的にリスクを取りに行っているということになります。
よく日本人はあまりリスクを取るのが苦手だと言われていますが、にもかかわらずなぜ多くの人が変動金利を選んでいるのかというと、それは今の金利が低いということだけを考えているのと、このリスク=リターンの仕組みをあまり理解していないからだろうと思います。
「目先はとりあえず金利の安い変動にしておいて、金利が上がってくれば固定金利に変えれば良い」と思っている人は多いと思いますが、それは実は非常に甘い考えなのです。通常はそういう場合、金融機関が変動金利から固定金利への借り換えに応じてくれるケースはまず無いでしょう。私はローンの専門家ではありませんが、常識的に考えて貸す側にとって不利になるような取引にそう簡単に応じるとは思えないからです。当然、もし借り換えするのであれば、他の金融機関を利用することになるでしょうが、それとて新しいところと話をするはずですから必ず借りられるという保証はありません。
借り換えはそれほど容易ではない
それにそもそも変動金利が上がる時は、既に固定金利は上がってしまっています。変動金利は短期金利を基準にして決められるため、政策金利の動向に影響を受けますが、固定金利は長期金利がベースになります。すなわち市場で決まるのが原則です。言うまでもなく市場に参加している人達は先を読んで行動しますから、まず長期金利が動くのが先で、このため固定金利の方が先に上昇しやすいのです。現に昨年末に日銀が長期債のYCC(イールドカーブコントロール)の上限を拡大したことで、銀行の住宅ローンも固定金利が少し上昇しています。したがって、それほど自分に都合の良いように思惑通り動くと考えない方が良いでしょう。
ここからもし変動金利で借入をしようということであれば、それは積極的にリスクを取りに行くことになります。例えば自己資金は豊富にあるのなら、仮に大きく金利が上昇し始めた時に、それを使って返済することも可能です。(これもケースバイケースのようですから、常にうまくできるわけではありませんが)つまり、投資をするにあたっては余裕のある資金でやりましょうということと同じ意味なのです。
結局、変動金利か固定金利かを考える場合に大切なことは、今の金利が高いか低いかの損得だけで考えることではありません。リスクを自分がどれだけ取れるのか? ということを考えることが最も重要なことだと考えた方が良いでしょう。
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。