出産が保険適用になると逆に医療が保てなくなる

出産費用については「保険適用にしてほしい」といった意見もありますが、私はさまざまな理由から反対です。

いちばんの理由は、保険点数の設定方法は不透明で、医療全体として都心部だと保険診療だけでは運営していけないぐらい安い保険点数のものが多いためです。もしも分娩が保険適用になってしまうと、十分な設備投資や人員配置ができず、結果的に医療を保てなくなる恐れがあります。保険適用となることで、多くの産院が立ち枯れする可能性があります。また、保険適用となっても個室代などの部分は自己負担となり、医療部分の3割負担と自己負担分を合わせると保険適用前よりも持ち出しが多くなることも考えられます。実際、昨年4月からの不妊治療の保険適用では、補助金がなくなって3割負担となったこと負担額が増えた方も多くいらっしゃるようです。

産婦人科医の立場としては政府には、産院が経営のことをそれほど気にせず、安全に分娩できる体制を維持できる仕組みをサポートしてほしいです。

妊娠・出産は本来、危険なものですが、出産時に命を落とすという事態が極力起こらないインフラをととのえることは必須です。そのために私たちも医療に従事していますし、政府が少子化対策をしたいなら、出産が安全にできなくなることは望んでいないと思います。世界に誇る安全性の高い周産期医療を保てなくなるのは避けたいですし、それは誰にとってもつらいことではないでしょうか。

政府はもっと財政出動をするべきだ

政府が出産育児一時金を上げたことは、結果的に産院への支援になっている面がありますが、SNSでは、ぼったくっている産院と産む側の人との対立構造のように言われています。政府は産む人に明確に届くような支援をすると同時に、産院が医療を保つことのできる支援もしてほしい。双方に届く支援が必要だと思います。

私としては、お産が減って出産育児一時金の支給も減っているのだから、政府もケチくさいことをいわずに、もっと出せばいいのに、とつくづく思います。

たとえばイギリスのように、NHS(National Health Service)といった保険制度で基本的に出産費用は無料、でも、キャサリン妃のようにプライベートの病院で産みたい人は自腹で払う。そういうシステムを取っている国もあります。無償化といっても無限に補助する必要性は乏しいので、どこかで線引きは必要だと思います。

また港区や渋谷区など、全国でも突出して出産費用の高い地域では、自治体から出産時にそれなりの金額が支給されています。分娩費用は地域差が多いので、出産一時金で足りない分は自治体が相当額を補助するという制度も考えられます。