「指導」がモラハラに
このような結末は、決してB氏も望んでいなかったはずだ。妻としての不足を指摘し、「指導」することが、妻の心身にこれほどまでの負担を生じているとは考えなかったに違いない。B氏は、それに気付く機会を逸してしまったために、Aさんは心身がボロボロになり、これ以上B氏の「妻」としてとどまることはできず、去って行った。
「指導」しているつもりが、実は精神的攻撃になっていることは非常に多い。「正当に指導している」との思いは、立場の優位性が背景にある。そして、相手が従属的な立場にあるとき、指導は、過酷で相手を傷つけるまで行われてしまうのだ。こうして、人間関係を歪め、時に破壊し、攻撃を受けた側の心身を深く傷つけ、ボロボロにしてしまう。
「指導」を含めた、優位者からの精神的攻撃(つまりモラハラ)が起きるのは、夫婦関係だけではない。親子、上司と部下など、上下関係による支配・従属が起きやすい人間関係にはすべて当てはまる。
相手を傷つけないよう思いやる
私は、「意見を言うな」と言っているわけではない。意見、感想を述べ、場合により指導をする場合、それを受ける側の心理を考え、精神的攻撃にならないよう、相手を傷つけないように留意するべきだと言っているのだ。これは全く窮屈なことではない。「相手の立場を思いやる」というごく普通のことを推奨しているに過ぎない。
日々、妻を苦しめ、そして、いつしか破局を迎えるよりも、お互いに気遣い、いたわり合う夫婦関係の方がはるかによいはずだ。多くの破綻した夫婦、離婚して初めて「幸せ」を取り戻す夫婦を多くみてきた離婚弁護士として、このことを、(従属的立場を強いられる女性にではなく)主に、(その当否はともかく、現実には、女性に対する優位性を得やすい立場の)男性に訴えたい。
1959年生まれ。1978年International School of Bangkok卒業。1982年に上智大学法学部法律学科卒業、1989年弁護士登録。1992年に独立し、さつき法律事務所を開設。外国人を当事者とする案件、離婚案件などを含む一般民事事件を中心に弁護士業務を行う。2015年ごろからTwitter(@SatsukiLaw)でモラ夫の生態についてツイートしている。2018年9月からは、4コマ漫画「モラ夫バスター」を週1本ペースで掲載。