※本稿は、井上智介『どうする? 家族のメンタル不調』(集英社)の一部を再編集したものです。
「死にたい」と言われたときはどう応えればいいのか
どうすれば……?
「死にたい」
と、患者さんがこぼしたら、
「打ち明けてくれて、ありがとう」
「言いにくいことを言ってくれて、ありがとう」
「勇気を出して教えてくれて、ありがとう」
と、応えてください。
ご家族はきっと驚かれると思います。頭が真っ白になって、嫌な汗が吹き出てきて、声が震えてしまうかもしれません。
「死ぬなんて、そんなこと言っちゃダメだ」
と、言いたくなるかもしれません。
でも、ぐっとこらえてください。そして、「死にたい」という気持ちを伝えてくれた患者さんに、感謝の気持ちを伝えてください。
私たち精神科の医師も同じように応えます。「死にたい」と人に言うのは、相当に勇気のいることです。心身ともに疲れきっている患者さんは、身を削る思いで「死にたい」と伝えてくれました。そのことに、まずは感謝しましょう。
「死んじゃダメ」は逆効果に
「死んじゃダメだよ」
という言葉は、逆効果になる可能性があります。この段階にきている患者さんにとって、死は、今抱えるつらさ苦しさを解決してくれる唯一の光のように見えているからです。薬を飲むより、睡眠を取るより、死ぬことが一番ラクになれる方法なのだと思えてならないから、「死にたい」と言うのです。
それなのに家族や医師が、「死んじゃダメだ」と言ってしまうと、患者さんは、
「しんどさから逃げるな」
と、逃げ道を塞がれたように感じます。そして、さらに追い詰められていきます。
「死にたい」は「死にたくなるほど、つらい」
患者さんの言う「死にたい」という言葉の真意は、
「今、死んでしまいたいほど、つらい」
ということ。
そのつらさを、いいとか悪いとか言うのではなく、ありのまま受け取ってください。感謝した後に言葉を続けるときは、患者さんを主語にして話しかけるのではなく、自分を主語にして話しかけます。つまり、
「あなたは、死んではいけない」
ではなく、
「私は、寂しいから死んでほしくない」
「僕は、あなたが生きているだけで幸せなんだ」
と、伝えることが大事です。これを「アイ・メッセージ」といいます。
伝えた後できることは、物理的にそばにいること。「死にたい」と言われたとき、どれだけ患者さんと一緒にいられるかが、非常に重要になります。