そばにいるだけでいい
言葉が出てこないし、何をしてあげたらいいかもわからないなら、そばにいるだけで十分です。無理して声をかける必要もありません。ただそばにいて、話したいときは話を聞くよ、という気持ちが伝わればいいのです。つらいことをいくらでも吐き出せて、絶対にいつでも味方になってくれる相手がいることが、一番患者さんの安心材料になるのです。
もしかしたら、ただそばにいるだけしかできないことに、無力感を覚えるかもしれませんが、耐えてください。「死にたい」という人にとって、周りの何かしてあげたいという気持ちが、却って負担になる可能性が高いことを知っておきましょう。
自殺してしまうのではと不安
どうすれば自殺を防げるのでしょうか。
他人の行動を、完璧にコントロールすることはできません。悲しいことですが、自殺を完璧に防ぐ方法はないのです。私たち精神科医であっても、力が及ばないことはあります。
患者さんの行動や言葉が、どこまで自殺の衝動とつながっているのか、それを見抜くのは非常に難しいのです。
自殺の危険性について考えるとき、私たち医師がまず確認することは、患者さんに自殺の危険因子がどれだけあるかという点です。たとえば、過去に自殺未遂をしているかどうかは、とても重要な情報といえます。
それから、身近な人、つまり近親者や友人・知人に自殺者がいるかどうかも、必ず確認します。自殺がその人の身近にあるかどうかで、危険度は大きく変わってくるからです。
性別も一つの要因です。実際、自殺者の数は男性が約7割と圧倒的に多く、自殺未遂者では女性のほうが多いことがデータからわかっています。
そして、年齢も大事なポイント。年齢が上がれば上がるほど、自殺率も上がります。テレビの報道では若い人が亡くなるケースが大々的なニュースになりますが、全体的な数字で見ると中高年男性の自殺が最も多いといえます。
あとは、近しいところで喪失体験をしていないか、という点もこまかくチェックします。
近しい人が亡くなるのは、喪失体験の代表的なものの一つ。家族、親類、ペットの死などは、心に大きく影を落とす一因です。離婚もあるでしょう。
病気によって仕事を失ったり、ギャンブルで大金をすっていたり、経済的に大きな損失を被ることも喪失体験に当たります。それから、訴訟問題。訴訟で金銭を失ったり、名誉を失ったりしているかもしれません。
こうしたポイントが、患者さんの「死にたい」という言葉の深刻度を確認するための手立てになります。