自殺のサインを見抜くのは至難の業
患者さんが自殺をはかったとき、ご家族は、
「自殺のサインはなかったのだろうか」
「もしかしたらあれは、自殺の兆候だったのかもしれない」
と、悩み苦しみます。しかし結局は、その悩みに答えを出すのは難しいし、一体何が自殺のサインなのか特定することはできません。言ってしまえば、ちょっとでも普段と違う行動をしていたのなら、それが自殺のサインである可能性は否定できないのです。
もっとも「普段と違う行動」が、ほんの些細な変化でしかないことも多いものです。ご家族にできることは、見守って、その変化を見逃さないことに尽きますが、そもそも予兆というものは、後からしか気づけないことのほうがずっと多いのです。だから、なぜ気づかなかったのかと、自分を責める必要はありません。
サインは些細でわかりにくい
ただ、自殺のサインとして典型的なものもあるので、いくつかご紹介しておきます。たとえば、急に大切なものを整理するなど、身辺整理を始めたとき。大事にしていたものを誰かにあげたり、借りたままになっていたものを返したり、部屋をきれいに片づけはじめたりします。
情緒が不安定になるのもサインの一つ。急に涙ぐんだり、妙にそわそわしていたり、ひどくイラついていたりという変化を見せることがあります。飲酒量が増えたり、すべてに投げやりな態度を取るようになったりするのも、よくある変化です。生きる気力を失うと、自分のことを大切にできないので、前から自転車がやってきても避けるようなことをしなかったりします。
他にも、自殺のことを口にしてみたり、ロープを買うなど準備をしたり、駅のホームに下見に行ったりしているケースもありますが、これは後からわかる場合も多く、見抜きにくいサインといえます。
正直なところ、後からなら何とでも言えるのです。そもそも、明らかにおかしい様子があれば、日頃サポートしているご家族が、患者さんを放っておくわけがありません。逆にいえば、自殺のサインとは、それだけ些細でわかりにくいものだということ。私たちにできるのは、注意深く観察することだけです。