「女性は数学ができない」と考える人ほど、バイアスが

解析の結果、日本とイングランドの両方で数学・物理学の男性イメージに、要因1が強く影響していることが分かりました。数物系の職業に男性イメージを持つ人(1a職業)や、女性は数学ができないと思う人(1b数学ステレオタイプ)と、数学・物理学の男性イメージには統計的な関係がありました。

横山広美『なぜ理系に女性が少ないのか』(幻冬舎新書)
横山広美『なぜ理系に女性が少ないのか』(幻冬舎新書)

因果関係ではないので表現に注意が必要ですが、数物系の職業に男性イメージを持つ人・女性は数学ができないと思う人ほど、数学・物理学に男性イメージを持つということです。(ここから先、○○ほど○○といった結果の説明はすべて、統計的な有意差があったという意味で用います)。

1aや1bは、昔から言われることの多い要素とはいえ、日本とイングランドの両方において強い影響を示す結果が出て、あらためて衝撃を受けました。

また、数学や物理学に進学する人は一般的に頭が良いと思う人(1c頭が良いイメージ)ほど、数学・物理学の男性イメージが強いことも分かりました。

「女性は知的でないほうが良い」と考える日本の社会

では、私たちが新たに加えた要因4、社会要因部分はどうでしょうか。

残念ながら、そして予想したことではありますが、日本では、女性は知的でないほうが良いと思う人(4c知的な女性観)ほど、数学に男性イメージを持つことが分かりました。ただ数値としては、就職や数学ステレオタイプと比較して弱いものでした。また、ここでは物理学には有意な差が見られませんでした。

知性は人が人として生きていく上で必要なものです。それをジェンダーで否定するという、女性の人権を軽視する傾向が、数学の男性イメージにつながっていることは深刻です。

以下の論文の研究成果による
Ikkatai, Y., Inoue, A.,Minamizaki, A., Kano,K., McKay, E, and Yokoyama, H. M.(2021 b) “Masculinity in the public image of physics and mathematics: a new model comparing Japan and England”. Public Understanding of Science。30(7),810-826.

横山 広美(よこやま・ひろみ)
東京大学国際高等研究所 教授

1975年東京生まれ。東京理科大学理工学研究科物理学専攻 連携大学院高エネルギー加速器研究機構・博士(理学)。博士号取得後、専門を物理学から科学技術社会論に変更。現在は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構副機構長・教授。東京大学学際情報学府、文化・人間情報学コース大学院兼担。第5回東京理科大学物理学園賞(2022)、科学技術社会論学会柿内賢信研究奨励賞(2015)、科学技術ジャーナリスト賞(2007)を受賞。