「性差別についての社会風土」という4つ目の要因
以上のように、私たちは、要因としてはチェリアン先生らが結論した要因1から3を活用し、学問分野では日本で女性が少ない数学と物理学を選んで調査する方針をとりました。
量的(データ的)に影響しているとあらかじめ分かっているものを使用したというより、私たちの研究テーマとの関連が深そうな項目を並べ、それをテストするような形で調査しました。
その結果、一部が予想通りに数学・物理学の男性イメージに強く寄与していることが分かりました。1つのモデルとして提案しようという意味で、私たちは調査結果を「社会風土を入れた拡張モデル」と呼んでいます。
調査は、日本に住む20歳から69歳までの1177名(男性594名、女性583名)に加え、イギリスのうちイングランドに住む20歳から69歳の1082名(男性529名、女性553名)に実施しました。
チェリアン先生の研究がアメリカなので、アメリカのデータと比較することを検討しましたが、アメリカは州ごとに教育制度が異なり統一的なデータを取得するのに問題があると考え、イギリスを比較対象国にしました。
日本は教育制度が全国でほぼ統一されていますが、イギリスは北アイルランド連合王国やスコットランド、イングランドとの間でやはり違いがあります。しかしイングランド内では教育システムは統一されているので今回は日本は全国、イギリスはイングランドを対象にしました。
性差別についての社会風土を見る4つの質問
要因1から要因4には、それぞれいくつかの要素が含まれます。これらに対応した質問項目を用意し、どの項目が数学や物理学の男性イメージに寄与しているのか(統計的に有意な関係があるか)をチェックしました。
各要因に対応した質問項目とは、年齢、性別のほか、大学の学部卒か修士卒か博士課程修了か、数物系分野で女性のロールモデルが思い浮かぶか等です。
今回私たちが提案した要因4「性差別についての社会風土」に関する質問としては、次の4つの質問を用意しました。
・大学教育は女性よりも男性にとって重要であると思いますか。(4b)
・女性は知的であるほうがよいと思いますか。(4c)
・あなたは特定の学部・学科に進学すると、異性にもてないといった趣旨のことを言われた、もしくは聞いたことがありますか。(4d)
文言自体が時代錯誤と感じられることは重々承知の上で、日本ではそうした見方・捉え方がいまだに存在すると判断し、あえてこのような質問文にしています。(日)(英)と国名を記しているところが、解析(多変量解析)の結果、統計的に有意な差が出た要素です(図表3)。