「女の子は可愛くなきゃ」という歌が流れる日本特有の要因

私たちはチェリアンらが挙げた3つの要因について議論をし、この3つでは足りないのではないかという見解に至りました。

私たちがプロジェクトをスタートさせる少し前に、アイドルグループの「アインシュタインよりディアナ・アグロン」という歌の歌詞が炎上しました。「難しいことは何も考えない」「頭からっぽでいい」「女の子は可愛くなきゃね」「学生時代はおバカでいい」といった歌詞が出てくるその背景に、日本社会の病理が見えたように思いましたが、これは3つのいずれにも該当しません。

また、このモデルでは、私たちが測ってきた平等度などを入れる要因枠もありません。そこで、私たちは、チェリアンらが注目した3つの要因のほか、さらに要因4として、男性・女性はこうあるべきという「性差別についての社会風土」を加えることを考えました。そして、各要因に複数個の質問を用意して、その度合いがどの程度、数学や物理の男性イメージに寄与するかを測定するという設計です。

土台となるモデルがあるばかりでなく、別々に研究をされていた多くの要因を含め、全体を一度に測定することで、要因の中でも重要なものとそうでないものを区別できると考えました。ワンショットで問題点を見つけるというアイデアです。

「数学や物理は男性向き」という考えは浸透しているか

元論文ではできて、私たちにはできないこともありました。アメリカでは社会情報の追跡デ一タが充実していて、長い期間をかけて蓄積したパネルデータがあり、研究のために用いることができます。しかし日本では、今回の研究に使える既存データはないため、短い期間のプロジェクトで実際にとれるデータを使う必要がありました。

そのため、数学・物理学への女性学生の進学率ではなく、数学・物理学の社会における男性イメージに注目をし、それにどの要因が影響を強く与えるのかを測定しました。

男性イメージと理系進学の関係ははっきりとは分かっていませんが、私たちの研究プロジェクトでは、男性比率と男性イメージにはおおよその関係があると見ていました。結果が分かれば、優先的に取り組む事項もはっきり分かり、活動の指針にも役立てることができるはずです。

薬学の分野が、実際の勉強、研究は非常にハードなものであるにもかかわらず、女性が多いことでイメージが男性イメージに偏らないならば、学問に対する男性イメージの要因を確定し、その項目に対して集中的に対策をとって男性イメージの緩和を図ることが、実際に女子生徒へのアピールに重要だと考えたからです。

数学の勉強をする女性
写真=iStock.com/metamorworks
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